第13章 ❤︎ 岩泉先生の彼女と及川先生
≫岩泉side
そんな甘い時間も終わり、フロントへ出ると現実を突きつけるかのように浴衣姿の及川が待っていた。片手にはビールの缶をさっきよりもテンション高めで俺たちを出迎える。
「お前飲んでんのか?」
「だって俺、電車できたし。帰りはどうせ岩ちゃんが送って帰るんでしょ?」
「当たり前だ」
「でしょ?それ分かってたから諦めて電車で来てたんだ。俺はここに一泊するし」
「そうかよ」
「でもあれ?なんか、いちか、顔赤くない?」
「のぼせたらしい」
「そうなんだ。大丈夫?」
「はい。だいぶ良くなりました」
「でもまだ顔赤いね。俺、部屋とってるしそこで少し休ませてあげなよ。このまま車になんか乗せたら酔っちゃうよ?高速降りてからの道、結構複雑だったでしょ?」
「…確かに、それもそうだな」
「それに岩ちゃん朝ごはんとか食べてないでしょ?部屋でルームサービスでも頼んで?」
「お前の奢りなら食う」
「はいはい、分かってるよ。俺の部屋、三階だからとりあえず一旦休憩しようよ」
エレベータに乗り合わせる間はなんとな言えない空気になるのを外の景色だけが紛らわせてくれる。及川とのことがあって不安定になった関係もこれで終わらせたかった。隣のいちかの手をしっかりと握ってこの憂鬱だった毎日から早く抜け出したいとそう願っていた。
及川が予約していた部屋は10畳程の広さで一般的な旅館の和室。一人にしては広すぎないかと疑問になる程。
「一人でこんな部屋取ってたのか、お前」
「だって贅沢したかったんだもん」
「いいよな、金持ってる奴はよ」
「同じ給料じゃん。とりあえずメニュー表見て先に注文決めちゃってくれる」
渡されたメニュー表には和洋中と種類も豊富でどれも美味そうな写真もついている。どうせ及川の奢りなんだからと食いたいもの全部注文してやった。