第1章 ❤︎ 指先に触れたもの 及川徹
八月も終わりが近付き、慌ただしかった夏の合宿も明日で終わる。熱帯夜ではないにせよ蒸し暑さ纏わりつくこの嫌な感じは合宿中にいい成果を出せなかった不甲斐なさを助長させる。それに加えて意中の先輩といい感じになる予定だったのに三年の先輩のガードが固すぎて必要最低限の会話しか許されなかった。
俺としては不完全燃焼の夏。こんなでも持て余すのは先輩への想いと性欲だけってのがなんとも切ない。
風呂上がり、ふと前を通った宿舎のランチルーム。もう誰もいないはずなのに明かりがついていて窓から覗き込めばいちか先輩の姿。いつもはポニーテールなのに風呂上がりだからだろうか、肩まで伸びた髪を下ろしている。多分今日のゲーム練習の記録をしてるんだろう。
そう言えば岩ちゃんはまだ今日のスコアシート提出してなかったはず…。てことはこんなの、チャンス以外の何物でもないじゃん。