第10章 及川の彼女 岩泉一
「俺だってあん時よりは少しは大人になったから。いちかが欲しい言葉も想いも全部やるから…。もう一回俺の隣にいてくれ」
小さな体を抱き締めた両腕はやっと役目を果たしたように感じる。この日がくるのを俺はずっと願っていた。
「……うん、私でいいの?ほんとに?」
「ずっといちかしか見てなかったっつってんだろ?信用しろ」
「……うん。……ありがとう」
「ったく半年も待たせやがって」
「ごめんね…」
「お前が戻ってきてくれたらから、過去も含めて全部許す」
「うん…」
「だからもう泣くな……、な?」
諦めることの方が簡単だったかもしれなかった。
それでも頭の中に忘れられない人がいた。
まだ伝えていない事があって、ただもう一度笑って欲しかった。
今からだって遅くはない。
好きだって言葉以外今は見つからないけど、ずっと抱えてきた想いをいつか伝えられる時が来たらその時には言葉にして伝えるから。
空白だった時間を二人で埋めていこう。
fin*