第72章 結婚するまで帰れません(１)　岩泉一

夕食後はいちかを家まで送り、風呂を済ませて自分の部屋に戻った時はもう22時を回っていた。スマホを見ると松川から着信が数件入っていた。松川がこんな時間にかけてくるなんて何事だよと慌てて掛け直すとすぐに繋がった。

“岩？”
“悪い。お前からの着信気付かなかった。どうした？何かあったのか？”
“いや？そんな大したことじゃないだけど明日部活終わった後って時間あったりする？”
“明日は別にいいけど、何だよ”
“ちょっとした相談事？的な？別に悪い話とかじゃ全然ないけど電話じゃ全部伝えきれないから時間もらおうと思って”
“何だよ、すげぇ気になるわ”
“とりあえず花もくるからそん時に話すから”
“はぁ？何だよ”
“色々あってさ。それも来れば分かるから”
“煮え切らねぇな”
“ごめん。とにかくさ、明日は部活終わり及川にバレないようにどっかで待ち合わせしてそれから聞いてほしい”
“まぁ別にいいけど…”
“じゃあ及川の家とは別方向の〇〇食堂でいい？知ってる？”
“〇〇食堂。ああ、あそこの蕎麦屋な？”
“そう”
“…ん、分かった。了解”
“ありがとう。助かる。じゃあまた明日”

そういや及川もいちかに何かは知らねぇけど相談してたよな。相談相談ってあいつら何だよ。少しは自分で解決しろよな…。

スマホのアラームを確認してベッドへ転がり込んだ。柔らかな感触に程よい疲労感が溶けていく。ああもう落ちる…そう思いながら目を閉じたのにすっきりしない夜だった。