第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
しばらく涼んで汗が引いた頃、三人で駅前のスポーツショップへ向かった。狭い歩道でいちかちゃんの隣を陣取って時々振り返っては俺に牽制するように無駄なアピール。もはやさすがとも言える及川の素振り。こういうところが自分の評価を下げてるって事、俺は優しいから教えてはやらない。
夕暮れ時ということもあってか店内は部活終わりの高校生で賑やかだった。シューズコーナーはタイミングよく人も少なくていちかちゃんは目を輝かせて駆け寄った。
「久しぶりに来たなぁ、スポーツショップって」
「そうなの?なんかいちかちゃん何か運動してた?」
「いや私じゃないの。買い物の付き添いで。あ、これ、幼馴染が同じの履いてたシューズだ」
「でもこのメーカーってさ、主にバレーのメーカーだけどその子もバレーしてたの?」
「うん、そう。これはインハイ予選優勝した時に一緒に選んだやつだからよく覚えてる」
「え?それすごくない?全国行ってるってこと?」
「うん」
「もしかしてさ、幼馴染って男?このシューズもメンスだし」
「まぁ、ね。それは内緒です…」
「えー?なんで?気になるじゃん。もしかして好きな奴ってその幼馴染とか?」
「それはないです」
「ああよかった…。そんだけキッパリ言ってくれたら違うんだね」
「でもどこだろう?全国行ってるチームだよね?」
「及川。気になるのは分かるけど今はいちかちゃんお兄さんのシューズ見にきたんだろ?」
「あ、そうだった。つい気になっちゃって。…足のサイズとか分かる?」
「29…くらいだったような?」
「くらいだと分からないけど、それくらいならこの辺かなぁ?今日買うわけじゃないんでしょ?」