第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
インハイ予選も終わり、落ち着きを取り戻した6月。梅雨にも入りその日は朝から冷たい雨が降っていた。
スマホの画面はカレンダーの日付は6月10日になっている。俺の17回目の誕生日だった。
朝降っていた雨は止んでいたけど今にもまた振り出しそうな厚い雲空、ちょうど土曜で練習も半日終わり。練習の後はいつものメンバーでラーメン食って誕生日だからって奢ってもらった。特別嬉しいとかそういうのはないけどラーメンとチャーハン代が浮いたのはラッキーだった。
花「半日練習とか久々だよなぁ。ああ、何しようかな」
及「ねぇ岩ちゃん、今から皆でおしかけようか?」
岩「遠慮するわ。せっかくの休みなんだし寝たいし」
松「確かに予選終わってからあんまゆっくりしてる暇なかったしな。また明日も練習だし」
及「じゃあさ、マッキーかまっつん、服でも見に行かない?」
花「及川とかぁ…、雨だし俺はパス」
松「俺も」
及「ええー?付き合い悪いなぁ…。じゃあいちかちゃんでも誘おうかな」
花「連絡先知ってんの?」
及「あ、そういや知らない」
花「住んでるとこは?」
及「それも知らない」
花「だめじゃん」
及「ああ、残念。関西のセンスで服選んで欲しかったなぁ」
花「でもさ関西のセンスって言えばやっぱ虎柄とか豹柄になるんじゃない?」
松「前に虎の顔がドーンってプリントされたやつとか」
岩「想像したらウケるわ」
花「及川、案外似合うんじゃないの?」
及「ちょ、やめてよ!それは関西のおばちゃんのセンスでしょ?」
花「でもいちかちゃんがそれにしてって言われたら?」
及「ちょっと待って、それだけは無理かも…、俺のこのビジュアルに虎とか絶対イメージないでしょ?」
岩「お前はどっちかっていうと猿だな。猿の顔でも印刷された服でも着てろ」
及「待って、完全体ゴリラな岩ちゃんに言われたくないんだけど!」
岩「ああ?誰が完全体ゴリラだって?」
及「岩ちゃんしかいないじゃん」
岩「面白ぇな。もう一回言ってみろ?」
及「何回だって言ってあげる。岩ちゃんはこの四人の中で一番ゴリラに近い男だよ」
岩「お前、マジでぶん殴るぞ」
「一…っ!」