第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
そういや二人きりで話したのは久しぶりのような気がした。たった数日しか経ってないのに思えば大体夜は毎日家で夕飯食ってたしそれが当たり前になってたことに気付いた。
宿舎の前で足が止まる。柳瀬を一人あの場所に置いてきたけどあの後すぐ帰ったのかが気になって俺は引き返した。
まだベンチに座っていて声をかけようか迷っていたら聞こえてきたのはふと聞こえてきたのは柳瀬の話し声。
誰かと電話してんのか……?
“ごめん、ご飯食べてて着信気付かんかってん。そっちも今は合宿中やろ?どう?みんな元気にやってる?”
関西弁で話してるってことは前の学校の奴?合宿中ってことは俺と同じバレー部の奴なのか?相手も……男?
“色々と報告がくるけどツムサムコンビは相変わらずなやな。帰ってこいってメールがめっちゃくるから一回叱っといてくれる?”
“男”というフレーズが頭を過ぎって会話の内容を聞くつもりはなかったけど何となく気になってその場を離れることができない。こんな風に楽しそうに話す姿に焦りに似た感情がこみ上げてくる。
“私やって寂しいし会いたい。みんなに会える夏が待ち遠しいもん。………そやね。今は強がらんでもええよね。信介の声聞いたら元気出た。ありがとう。……うん、信介も無理せんように。ほなまたね”
柳瀬の電話の相手が男だって分かった瞬間、焦りと苛立ちが一気に募って明らかに嫉妬してる自分がいた。
俺の前では強がるのに…。
シンスケって誰だよ。
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