第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
水分をとらせた後は近くの内科までは背中におぶって連れて行った。。もうすぐ病院も閉まる時間だったしこいつの歩くペースに付き合ってる暇はなかったから。時間ギリギリなのもあってか患者は少なかった。院内はしっかり冷房完備されていて今日は暑かったんだなって思い知らされる。
「もうすぐ呼んでくれるから」
「ごめんね。部活終わりだったのに」
「そう思うんなら自分の管理くらいしっかりしとけ」
「ごめんなさい」
「怒ってるわけじゃねぇけど、こっちには頼れる奴いねぇんだし自分のことくらい自分でちゃんとやれよ」
「そうですね。…一さんの言う通り」
俺の雑な言葉に表情が曇る。ただ気をつけろって言いたかっただけでこんなキツく言うつもりはなかったのに、いつもこういう時の言葉の選択を間違ってしまう。責める気なんてなかったのに気不味い空気になってしまったのは俺の所為だ。
あいつが診察室に呼ばれた後、5分程して顔なじみの看護師が声を掛けてくる。
「一君、ちょっといい?」
「あ、はい」
「あの子、知り合い?」
「ああ、まぁ…、学校が同じで」
「そうなんだ。よかった。帰り、悪いけど送ってあげてくれない?」
「いいですけど。大丈夫なんですか?」
「軽い熱中症だって。今から先生から説明あると思うから一緒に聞いておいてくれる?もう診察室入っていいから」
「分かりました」
“失礼します”と扉を開けると小さな頃からお世話になっている女医さん。その奥の部屋ではあいつはベッドに寝かされてその隣には点滴台が置かれている。
「一君、久しぶりね」
「そうですね」
「徹君はたまに大したことない風邪とかで顔見せに来てくれるんだけど一君全然来てくれないんだもんね」
「俺、あのバカみたいに弱くないんで」
「そうね。でもたまには顔見せに来てよね。今日みたいに」
「今日はたまたまで…。で、あいつはどうなんですか?」
「軽い熱中症だろうね。今日は暑かったし何人か似たような患者も来てたから。点滴すれば良くなってくると思うから」
「…分かりました」