第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
初めはこいつの言う“好き”って告白も嘘じゃねぇかって思ってた。けどほんとに俺が好きなんだなってこんだけ真っ直ぐに何度も言われたらな…、嘘ではないんだよな。
「……あ、また一さんって言っちゃった。岩泉君なのに」
「もうなんでもいいよ、面倒臭ぇし…。二人の時は好きに呼べ。どうせまた飯食いに来たりすんだろ?」
「行っても、いいんですか?」
「金ないんだし俺だってこっちに持ってくの面倒なんだし」
「じゃ次からは遠慮なく」
「飯に罪はねぇからな。腹いっぱい食え」
「私、嫌われてるんだなって思ったからこうやって話してるのがほんと夢みたいで。好きって気持ちが何倍にもなって胸がいっぱいで…」
「普通の会話しかしてねぇじゃん」
「それだけでも嬉しいんです」
「いつか“一君”とか“一”って呼べる関係になれたらいいんですけど」
「それはそうとお前はいつまでその敬語続けんだ?」
「もう少し…、距離が近くなったら?」
「じゃあ敬語のままでいい」
「え、それは嫌です…」
今日の及川への対応見てるからか、こんな風に好意を寄せられてるのも悪い気はしなかった。面倒臭い奴だと思ったけど、それなりに距離を保ってくれてちゃんと空気も読んでる。二人で話すのならそこまで嫌な気持ちもしない…そんなことを考えながらサンドイッチを頬張った。
「紅茶のおかわりもありますから」
「いや、これでいい。…紅茶、美味かった」
「また飲みたくなったいつでも待ってます」
「服はちゃんと着とけよ」
「そうですね。一応嫁入り前だし」
「もっと警戒しろ。こっちで変な武勇伝作るんじゃねぇぞ」
「はい。気をつけます」
「つーかさ、なんかここで食ってばっかだな、俺…」
「そういえばそうですね」
マグカップに口をつけながら微笑む。作った笑顔じゃなくて自然な笑み。タイプでもないけどこうやって見れば可愛いのは確かだ。
「ねぇ、一さん」
「なんだよ」
「私は嬉しいよ?一緒にいてくれて…」