第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
高二になる春。私は遙々兵庫からこの地へ引っ越してきた。
いつもより頑張ったお洒落。春らしいカラーで可愛く着飾ってベレー帽なんかちょんっと頭にのせてみる。言ってみれば今日の日のために脇目も振らず会ったこともない彼に長年片思いをしてきたんだ。
ずっと大切にしてきた写真には少し色褪せてしまったけれど変わらずに腕白そうな男の子が口をへの字に曲げて写っている。どれだけ格好良くなんてるんだろうって想像するだけで昨日は眠れなかった。仙台駅を降りて見たこともない景色が広がって、ガラガラと大きなスーツケースを押しながら一歩ずつ片思いのあの人の元へ向かった。
会ったこともないあなたをずっと好きでいた気持ちを伝えるために。