第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
“あなたは将来この子と結婚するのよ”
それは母にすり込まれてきた記憶。渡された一枚の写真には新聞で作った兜を被った腕白そうな男の子の姿が写っている。
“この人と結婚するの?どうして?”
“幸せになれるから”
“今は会えないの?”
“もう少し大きくなってからね”
“早く会ってみたいな”
なんの疑問も抱くことなく当時のプリンセス狂いだった幼い日の私は写真に写るまだ見ぬ男の子を本物の王子様だと思って、毎日毎日恋い焦がれていた。
許嫁という言葉を知ったとき、結婚を約束されて自分の人生が全て一君に向けられているのだと嬉しかった。
少女漫画よりももっと素敵な恋をして、一君が18歳になれば私は晴れてお嫁さんになれる。それだけを思って生きてきたと言っても過言ではない。
だから、一君のお嫁さんになれなきゃ私の16年間は意味がないんです。