第70章 ❤︎ 射精管理 二口堅治
「堅治君…」
日も暮れた夜道でいちかのくぐもった声が聞こえた気がした。まだ生々しく感じるいちかの温もり。今日という日が俺にとっては一生忘れられない1日になった。
遡ること数時間前、テスト期間中で部活のなかった俺は特にやることもなく珍しく家に直帰していた。早帰りの俺に母親は驚きながらも〝いい時に帰ってきてくれた〟と駆け寄ってくる。
「今日早かったのね」
「テスト期間だから」
「そうなの?」
「知らねぇのかよ」
「だってあんたいつも勉強しないでしょ?」
「赤点取らない程度にはしてんだけど」
「そうだっけ?高校入ってからあんたが勉強してるとこ見たことないからテストなんてないのかと思ってた」
「テストない学校とかないから。おかんの知らないとこでやってんだよ」
「まぁなんでもいいわ。とにかくこれ。これお願い」
母親が指差した方を見ると机の上の段ボールにはワックスでテカった小さめの赤いリンゴが10個ほど並べられている。
「で?」
「沢山いただいたから、いちかちゃんとこにも持ってって」
「嫌だ」
「あんたが全部食べちゃった苺、あれ、いちかちゃんとこからもらったものなんだけど」
「だから何だよ」
「私もお父さんも一粒も食べてないの。全部あんたが食べたんだから責任持ってお返ししてきて」
「無理。めんどくせー」
「行きなさい。行かなきゃ今月のお小遣い渡さないから」
「はぁ?」
「ろくに勉強もしないんだから働け。世間はそんな甘くないの」
「めんどくせー」
「はい。じゃこの袋に入ってるからお願いね。誰かいたら苺のお礼も言っておいてね。味はあんたしか知らないんだから」
「酸っぱかったっつっとく」
「酸っぱかった割には全部食べてたけどね。とにかくちゃんとお礼言っといてね」
お礼とかそういうのマジでダルい。愛想良くできるわけでもないのに俺に頼むのがそもそも間違ってる。
「いちかちゃん最近ますます可愛くなってたわよ。もう彼氏もいたりしてね」
「どうでもいい」
そうそっけなく返した。ただ久しぶりに聞いたいちかの名前。確か一年位前にどっかですれ違った以来、会ってはいない。思い描くいちかの姿に、どこか懐かしさを感じて久しぶりに会ってみるにも悪くないかとそんな感情が浮かんだ。