第69章 ❤︎ 黒尾鉄朗と岩泉一、どちらを選びますか?
「……鉄朗?」
すぐ側で肌を隠したバスタオルが落ちないように気にしながらゆっくりと起き上がった。
「あ、起きた?」
「うん…」
「水飲んどけ」
「ありがと…。もう喉からから」
黒尾さんから受け取ったボトルを上手く掴めずにゴロンと床に転がり落ちる。
「ごめん…。力入んない」
足元に転がってきたボトルを拾い上げてキャップを外して手渡す。
「無理すんなよ」
「優しい…」
「んなことねぇから」
一口水を含みこくりと喉をならしたあとは、柳瀬に笑顔にも戻ってきていた。
「はいはい。二人だけの世界はここまでな?俺のことちゃんと考えてよ?」
「いちいち出しゃばってくんな」
「んで?俺と岩泉さん足して割ったような奴がいいって言ってたけどどうすんの?」
「えー?」
「もう少し待てねぇのかよ」
「待ってもいいんだけどもしどっちかに気持ちが傾いてんなら聞いとこうと思って」
「今はまだ決められない。途中からわけわからなくなって今誰に抱かれてんのか分からないし記憶が曖昧だもん」
「岩泉さんに抱かれながら俺の名前呼んでたしな?」
「そうなの?」
「そう。あの瞬間勝ったって思った」
「……でもそう言われたら鉄朗とは違ってたような気がする」
「何が?」
「優しかった」
「俺も優しいだろ?」
「鉄朗とは違う優しさ。だから、今度は岩泉さんと二人きりでしてみたいです」
「え、俺は?」
「家でお留守番?」
「なんで」
「またこういう刺激的なのしたくなったら呼ぶから」
「てことは何?延長戦?」
「そういうこと。だって決められるわけないじゃん」
「長期戦でもなんでも俺は負ける気ねぇよ」
「俺も。いちかのこと、もう一回振り向かせるから。ってことでいいよな?」
「ああ」
「引き続きよろしく。……岩泉サン」
「本気で奪うにいくからな?」
「俺も奪われないように使える手段全部使ってくから」
「望むとこだ…」
もしこの世のどこかに交わらない二人が甘い蜜を奪い合うような世界線があってもいい。
fin*