第68章 ❤︎ 青城3年とルームシェア
「お待たせ」
「ゆっくりできた?」
「うん」
優しく微笑みながら私にゆっくり近づいてくる。目を合わせてしまったら魂を抜かれてしまうかもしれない。焦点を合わせないように視線を移す。そんな私に一静はお構いなしの様子で髪の毛に触れる。
「バスローブのままって。俺、いちかにその気がないなら潔く諦めるつもりだったのに。こんなの諦めきれないだろ?」
視線を外しているから見えないけど今目の前の一静はまた優しく笑ってるはず。心にバリケードをいくつ重ねても直球な攻撃には無意味。その証拠に一静の言葉だけで心拍数が簡単に跳ね上がっている。
「違…っ、暑かっただけだから」
そう、暑いだけ。体も隅々まで洗ったし必死で歯磨きもして、つい長湯になっちゃからからで…。
「単純にのぼせただけ」
「可愛いな、いちかは。体冷ますためにもジュース届いてるから飲めば?」
「うん。もらう」
二つ置かれたトロピカルジュースであろうグラスの氷は解け始めて雫で濡れていた。一静もまだ一口も飲んでいないのか口をつけた様子はない。もしかして私が飲むのを待ってた?なんてまた余計なことが浮かんで、味なんて二の次で渇きを満たすために勢いよく吸い上げた。甘い雰囲気をぶち壊すようにジュースを吸い上げる音が響く。
「そんなに喉乾いてたんだ。言ってくれたら風呂の中に持ってったのに」
「いや、いい…」
私の奇行に一静だって呆れたように笑ってる。でも、今の私に何も期待なんてしてほしくない。これ以上、ペースを乱されるともう戻れなくなるってどこかで分かってる。
「落ち着いた?」
「喉は潤った」
「それはよかった」
「一静は?お風呂入るの?」
「後で」
「じゃあ私、寝ちゃっていい?」
「まだ眠い?」
「うん。なんかね、眠いの今夜は」
本当は嘘だけど。大嘘だけど。