第68章 ❤︎ 青城3年とルームシェア
気が付けば車の後部座席に寝かされていた。お酒も飲んでないのにしばらくは記憶が曖昧で意識が覚醒するまで何があったのかを必死で思い出してたけど、脳内に残る記憶はすべて忘れ去りたいものだった。
最悪…って言葉が過る。ため息と車内の窓からは夜を照らすネオンの光が流れていく。運転席には松川の姿。見覚えのない毛布はどこかで買ってきたのだろうか、タグが付けられたままだった。
「…松川?」
「あ、起きた?…ちょっと待って、一旦車停めるから」
「うん」
「体、大丈夫…?」
「なんとか…。ごめん、毛布ありがと」
「寒くない?」
「うん、平気」
「あったかい飲み物も買ってるからか飲む?」
「ありがとう。貰う」
手渡されたのはゆず味のホットドリンク。まだほんのり温かくて優しいゆずの甘い味が広がって気持ちも落ち着く。外はもうすっかり真っ暗闇で明かりのついたお店で隣町まで帰って来てることに気付いた。
「あれ?そういえば及川は?」
「置いてきた」
「どこに?」
「駐車場」
「なんで?」
「さすがに許せないから」
「もしかして怒ってる?」
「かなりね。いちかもされたこと覚えてるでしょ?」
「………置いてきて正解だね」
「だろ?」
「でも松川、いつ気付いたの?私、完全に意識飛んじゃってて分かんなかった」
「公園まで迎えに来いって連絡あったんだよ。あいつ、買い忘れてたものがあるからって駐車場で待ってたのに帰ってこなくて。で、電話かかってきて迎えに行ったらマいちかは寝てて…」
「そうだったんだ。私は逆の事聞かされてた。騙されてたのか」
「事情聴いて頭きたから歩いて帰れって残してきた。今頃反省しながら一人で電車で帰って来てんじゃない?」
「私、松川が怒ったところなんて初めてみたかもしれない」
「そう?でも自業自得だから。いちかを大切に扱えない奴は及川だったとしても許せない」
「ねぇ、でもなんでそんな怒ってくれるの?」
「いちかは今でも俺にとっては大切な子だから」