第9章 春を待って
私と不死川サンは、だいぶ蕾の膨らんだ桜並木を再び歩く。
「桜、咲いたらきっと綺麗ですね。」
という私の呟きに、
「そうだなァ。」
と優しく返事をしてくれる不死川サン。
(さっきは、不死川サンが昨日したばかりのご飯の約束を早速実行してくれてとても嬉しい。だけど…
同時に、もう約束は無くなってしまったなぁと寂しい気持ちにもなる。不死川サンの手当ても、長くて2週間程度だろう。その頃には、この桜も咲くのだろうか。
不死川サンが回復したら任務の度に、怪我をしている不死川サンを期待して探してしまうなんて嫌だ。
隠しとして、その前に人として、不死川サンの回復を願うのが当然なのに、もっとこの任務が長かったらなんて考えてしまう。)
「腹でも痛えのかァ。」
と不死川サンに声をかけられて、立ち止まってしまっていた事に気づく。不死川サンは、
「あの2人、俺が誰かを連れてきたからって張り切りやがってェ。」
そんな事をぼやきながら困ったように頭掻いているが、怒ってはいないところが不死川サンらしい。
「お腹痛い訳では…。」
と答えると、
「そうかァ。」
と不死川サンは良かったと安堵する表情になる。
こんなに、純粋に私のこと心配してくれているのに、
“不死川サンの傷が早く治って欲しくない”そんな事を考えてしまう自分がどうしようもなく嫌になって、もうどうなでもなってしまえと思った私は、
「ごめんなさい。寂しいです…。」
と呟いて不死川サンの羽織の袖を握った。