第4章 おはぎを食いにー実弥sideー
「お待たせしました。」
手当てを終えた花耶からそう告げられる。
焦った俺は、小さく
「おはぎ…」
と呟いた。
(やべぇ、何で続けたらいいんだ…)
「この前、おはぎ食ったのかァ?」
と絞り出す。
「いえ、あのお店のおはぎはまだ食べた事無いんです。不死川様は、おはぎお好きなんですか?」
(食ったことねぇのか…。おはぎは、そのとおり好物だ。)
「アァ」
「そうなんですね!おはぎ気になっていたので、今度行くときは、おはぎにしようかなぁ、お店のお抹茶とも合いそうですし!」
おはぎと抹茶の組み合わせは、格別だ。
だが、こんなナリの男が1人店先で…
という訳にも行かず、俺は毎回おはぎを買って帰り、自分で抹茶を淹れている。店先で一緒にいただければ、景色もいいだろうし、いつもより美味しいだろう。
「抹茶いいなァ」
と答えると、
「はい!お抹茶と一緒にお店でいただいたら、絶対美味しいですよね!」
と俺が思ったのと同じことを嬉しそうに言われ、気持ちが綻ぶ。
(花耶がいれば一層美味いんだろうな。)
なんて、また恥ずかしいこと考えた俺は、平然さを装いながら、
「そうかァ、美味そうだな、今度連れてけェ」
とようやく伝える。
考えたくもないが、もし、思い人でもいりゃあ断ってくるだろう。言ってしまった後で、最悪な想定が頭によぎり不安になりかけた俺に、
「は、はい!!」
と花耶は、勢いよく返事をしてきてその可愛らしさに思わずニヤけてしまいそうになる。
(んな、顔したら俺のこと好きなんじゃねぇかって勘違いしちまうだろうが…)
恥ずかしい顔を見られないうちに、俺は帰る事にした。
まずは、行方不明事件をとっとと解決しちまおう。
そしたら、少しは時間もできるだろうから花耶との、おはぎはそれからだ。
鬼を殲滅するために、いちいち褒美とかいらねぇけど、今回ばかりは、自分へのご褒美だ。