第8章 Season 1 ジェラシー
「どういたしましてー。ちょっと、がんばったよー」
と私は腕を上げながら、紘の横を通りリビングに入ろうとした。が、腕を紘に掴まれる。
「お前、ちょっとやせた事ない?」
「え?」
「最近、食ってるか?」
「え……と、ちょっと食欲なくって……」
思わず目をそらしてしまった。
なんとなく、頭の隅をこのあいだ拓と話したことや、治さんとのことがよぎる。
「乃々は?」
「子供部屋で寝てる」
「ならちょっとこい」
紘は、私の腕をつかんだまま、階段を上がっていった。
「なに?……ちょっと!」
紘の部屋は、エアコンが効いていて、涼しかった。荒々しくドアを閉めると、私をベッドに投げつけるように腕を離した。
「お前、生理は?」
「ちゃんときたよ」
「終わった?」
「うん。もう終わってしばらく経つけど……」
私の身体を押さえつけるように、紘がベッドに上がり、私を見下ろす。
やっぱり紘は私を都合のいい女、っていう見方をしているのかもしれない。
少し胸がざわついてしまうけど、私も紘を利用しているようなもんだ。割り切らなきゃ……。
気丈に振舞おうと笑顔を作った。
「薬は?」
「飲んでる」
「は?何でもっと早くいわねぇんだよ。俺、順さんの言いつけ守ってちゃんと我慢してたのにー」
と悔しそうに言った。
「え?そうだったの?私はてっきり紘は他で済ませてるんだと思ってたよ」
以前に拓と話したときに、紘には2、3人女がいるんじゃないかって言っていたのを思い出して、ついそう口走ってしまった。
それがいけなかった。
「はぁ?なんだよ、それ」
紘の声に苛立ちが混じった。
「誰が、そんなこと言った?」
手首をぐっと掴まれて、私は身体をこわばらせる。
「……前に、拓と話したときに……。紘、あんまり帰ってこないから、ひょっとしたら2、3人女がいるんじゃないかって」
「……んで、お前、それ本気にしたの?」
「違うの?」
「ちげーよ。大体俺がそんなやつに見えっか?」
「見える」
ちょっと怖かったけど、言わずにはいられなかった。
私の中で、しばらくもやもやとしていたものを吐き出したかったのもあった。