第8章 Season 1 ジェラシー
眠い目をこすりながら、寝室を抜け出し、リビングに入ると、すでに翼がいた。
「……お、おはよう、ございます……」
酷く気まずそうな言い方で、目線を床に落としながら。
「……おはよう。早いね」
私はまだ頭が寝ぼけていて、すぐにはどうして翼がこんな状態なのかがわからず、いつも通りに声をかけた。
私の声に怒っていないということを感じ取れたのか、翼は、
「ごめんなさいっっっ!!」
勢いよく頭を下げた。
「え?なに?……あ、あぁ……」
すぐに昨日の事か、と思い出し、私も少し戸惑ってしまった。
「僕っ、酔っていたとはいえ、昨日、慧さんにすごく失礼、というか大変な事をしてしまいましたよね?ごめんなさい。すみません。……でも、僕ここに居たいんです。許してください。おねがいします」
頭を下げたまま、翼が一気にまくし立ててきた。
「わぁ……つばさっち、大丈夫だよ。ここに居ていいよ。私は気にしてないから」
気にしていない、というのは半分は嘘だが、裕や紘との関係を考えると、翼の事は怒れない。
むしろ、本当にばれてしまっていなかったことにホッとしていた。
「あの、僕になんでも言いつけてください。反省の証に、僕、なんでもしますから……」
今まででも一番よく手伝いなんかをしてくれて助けてもらってるのに。
「いいよいいよ、今までどおりで。いつもつばさっちに助けてもらって私感謝してるんだから」
だから、顔上げてよ、と私は翼の肩に触れた。
翼の身体がびくっと震える。
「つばさっち?」
「ごめんなさい。本当にごめんなさいっ」
あーもう。なんて言ったら判ってくれるかなぁ……。
少し困ってしまい、私は頭をめぐらせた。
そして、リビングにまだ誰も近づいていないのを確認すると声のトーンを落とし、
「あのね、つばさっち。私昨日、つばさっちに癒してもらえたよ。だから、こっちこそどうもありがとう、ね」
と伝えてあげた。たぶん今の翼にはこう言ってあげるのが一番効くだろうと、思ったのだ。
「あっ、あのっ。じゃぁ」
「だから、怒ってないってば。あれは、ちゃんと拒否できなかった私の弱さにも非があるんだから。それにつばさっちは酔っ払ってたわけだし、お互い様、だよね。だから、夢でも見たと思って、今までどおり普通に戻ろうよ」