第8章 Season 1 ジェラシー
私の言葉にやっと安心してくれたのか、
「ありがとうございます、慧さん」
と顔を上げて、ようやく翼はいつも通りの可愛い笑顔で答えてくれた。
治さんとのことがあって、一週間とちょっとが過ぎていた。
外は昼間なのに暗くて、雨が降り出しそうだった。
むしむしと湿った空気の中、考えないようにしようと思って、家中を掃除し、いらないものは捨てた。
普段見逃しがちな部分も探して、徹底的にきれいにしていく。
乃々も面白がって、はじめのうちは小さいモップを持って追っかけてきたが、すぐに飽きて、ねーちゃんまだかなーとぼやいていた。
バイトも何回かシフトが入っていたから、とにかくそっちに集中した。
忙しくしていれば、治さんも何も言わないし、何もしてこない。
たまたまあの日の仕事が少なかっただけで、また朝早くから夜遅い日が始まり、ゆっくり顔を合わすことさえもなかった。
さすがに一週間以上もひたすら掃除や片づけをしていると、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
なんだかあまり食欲もなくて、とにかく身体を動かし続けていたので、疲れ果ててもういいや、とソファに座り込むと、酷い疲労感に襲われた。
乃々は、どこにいったかな?と思いながら、目だけを動かしてリビングを見渡したが、ここにはいないようだ。
子供部屋だろうか、とそっちに向かうと、一人遊びに飽きた乃々が、空気のこもった蒸し暑い部屋で人形を抱いて寝ていた。
「あーあー、こんなところで……」
窓を開けて、空気を入れ替えようとしたものの、重たい湿った空気が流れ込んできただけだった。
まぁ、自分じゃ窓あけれないよねー。ごめんね、と思いながら、乃々のおでこに張り付いた前髪をよけた。
一応タオルケットを乃々の身体にかけておいた。
私も少し、一緒に寝ようかな。
でもその間に降り出すかな、と横になっていたら、
「ねー、慧ー。どこにいんのー?」
と家の中で私を探す声が聞こえる。
今日は紘休みだったんだな、と思いながら重い身体を起こした。
子供部屋から出ると、紘がちょうどリビングから出てくるのが見えた。
「どうかした?」
私がそっちのほうに向かいながら問うと、
「いや、なんか風呂とかめちゃめちゃキレーになってっから。ありがとーって言おうと思って、探してた」
言いながら、にかっと笑った。
