第7章 Season 1 酔っ払い
「慧さーん」
玄関の開く音が聞こえて、しばらくすると赤い顔をした翼がリビングに入ってきた。
今、リビングには私しかいない。
さっきまで裕がいたけど、やることがあると、自分の部屋に戻った。
「つばさっち、酔ってる?」
お酒に強いと思っていた翼が、泥酔して帰ってきた。
ふらふらとわたしのところまでやってくると、倒れこむように私に抱きつく。
「ちょっと、つばさっち。すっごいお酒臭いし、どうしたの?」
「うぅー、慧さーん。あったかぁい」
私に抱きついたまま翼は頬を摺り寄せてきた。
かわいいんだけど、この子は男の子なんだ。
私がしっかりしなきゃ。
しかも、この子は酔うと急に慣れ慣れしくなるんだなと、普段とのギャップに笑いそうになる。
いつもはどこか遠慮しているような、適度に距離を置いているような感じだ。
「つばさっち、駄目だよ、自分の部屋行って寝なきゃ」
「じゃー、慧さん連れてってよー。一緒にいこー」
そう言って、フラフラしながら私の手を掴む。あぁ、もうっ。
「連れてくだけだかんね!」
私は泥酔して、足元が覚束ない翼の身体を支えて二階へと連れて上がった。
翼の部屋のドアを開けて、中に入る。
普段入ることのない部屋は、やっぱり男の子とは思えないようなほどきれいに片付けられていて、スッキリとしていた。
「ほら、部屋ついたよ?わかる?」
私はとりあえず翼をベッドまでなんとか連れて行くと、そこに座らせた。
身体を起こしておくのも難しいのか、翼はそのままベッドにごろっと倒れこんだ。
「ちょっと、大丈夫?水、持ってくるね」
そう伝えて、私はキッチンに水を取りに戻った。
水をグラスに注ぎ、お盆にのせて再び翼の部屋へと急いだ。
「つばさっち、水持ってきたよ」
言いながら、近くのテーブルにそれを置くと、
「ん~ぅ」
翼は目を開けて、私を確認する。
「慧さーん」
「はいはい、なんですか?」
酔っ払いの扱いは、はじめは面白いがだんだん面倒になってくる。
これは私一人じゃちょっと手に負えないかも。
誰かに助けを呼ぼうか、と考えをめぐらせていると、
「水飲むー」
翼が手を伸ばしてきた。
「はいはい、じゃちょっと起きれる?」
翼の近くに寄り、身体を起こすのを手伝った。