第3章 Season 1 尋問
あのあと結局プリントは見つからなくて、仕方なく分厚い料理本をひっぱりだし、似たような料理をさがしていると、翼が戻ってきた。
「慧さーん、手伝いに来ましたー」
そういいながら手を洗い、私の指示を待っている。
寧々と乃々はあのあとテレビをつけて観始めたので、翼がまた姿を現したことを気にも掛けていないようだ。
「あ、ありがとう。んじゃー……なにしてもらおうかな……」
料理本から顔を上げて、翼にやってもらえそうな事を探した。
「とりあえず、たまねぎ剥いてよ。そのあとはーレタス洗って、ちぎって」
「はいはーい」
私がたまねぎを4つごろごろと出すと、すぐに皮を剥き始めてくれた。
味噌汁の準備もしようかと、鍋に水を入れたりだしをとったりしていると、
「あの、慧さん……」
翼が言いにくそうに声をかけてきた。
「んー?」
「えっと……紘くんと……何かありました?」
「は?」
急に紘の話が出て、思わず鍋のふたを落としそうになってしまった。
「なんで?また急に……」
何かって、何だろう。何もなかったわけじゃないから、少し身構えてしまうけど……。
「いや、この前夜中に紘くんの部屋から声が聞こえた気がしたから……」
ほら、僕の部屋紘くん部屋の隣だし……と続ける翼。
「あー、あれね」
ごまかしがどのくらい利くかは判らないけど、もう一週間も経った事だ。
どうにか冷静に対処できそうだったので、
「紘がチョコレートくれるっていうから、もらいにいったのよ。バイト終わるころにメールくれるんだもん。ごめんね、起こしちゃったね」
と、まぁそれほど嘘ではないことと謝罪の言葉を並べておいた。
「あ……なるほど」
意外にあっさり翼は納得してくれた。
「そのまんま、しばらく話こんじゃってねー」
「よかったー。僕、てっきり治さんが相手してくれないから、紘くんのところに行っちゃったのかと思って。そっかー、なーんだー。チョコレートかー」
一人で納得しながらまたたまねぎの皮を剥く手を動かし始めた。
ん……ちょっと待って。治さんが相手してくれない……?
「ねぇつばさっち、どういうこと?」
「へ?なにがですか?」
「治さんが相手してくれないって、何を知ってるの?かな?」