第1章 Season 1 同居人
「何、不安そうな顔してんの?」
「!?」
裕は、突然私の目の前に顔を近づけて問った。
近い……!!
「……別に、そんな……」
やっとの事でそう言い返した私の鼓動は、ひどく早く打ちつけて、更には頬の温度をぐんぐん上昇させていく。
ふいを突かれたことに驚いた。
私、そんなに顔に出てた?
不安がないわけじゃない。焦りがないわけじゃない。
このままじゃいけないこともわかってる。
わかってるんだけど、なかなかうまくいかずにカラ回りばっかりしてる。
外れかけた歯車を元に戻すのには一体どのくらいの時間がかかるんだろう。
ひょっとしたら、もう壊れてしまうしかなくって、どんなに努力したってやり直しはきかないのかもしれない。
ただ、自分の中にある未消化な思いを、知らず知らずに外に出してしまうようじゃ、私もまだまだ大人だとは言えないな、とため息をついた。
涙が流れてなかっただけでもまだ、良かったなと思ってると、
「一緒に買い物にでも行こうか」
裕に促されて、私は立ち上がった。
飲みかけのコーヒーはもう冷めてしまったし、右の頬は、テーブルに頬杖をついていたなごりで少し感覚がおかしい。
マグカップを手に取り、流し台に向かう。それから、今夜は何を作ろうかと、冷蔵庫の前に立ち、扉を開けながら首をひねっていると、
「俺はー、ハンバーグがいいんだけどぉ?煮込みのやつ」
ニコニコ笑いながら、裕が私に好物をリクエストしてきた。
ちょっと前も作ったような気がしなくもないんだけどなぁと思いながらも、喜んでくれるんならそれでもいいやって思いなおして、
「んじゃあ、ひき肉が安かったら考えてあげるよ」
って答えたら、
「やった!」
なんてガッツポーズ。他愛もない会話。それでも私の心は少しずつ軽くなった気がした。
一人で考えてどん底まで落ちかけてた気持ちが、ふわっと浮き上がるような、それとも、暗い気持ちに何か柔らかい布を掛けてもらえたような、そんな感覚。
掘り下げてくるんじゃなくて、さらっと気持ちの方向を変えてくれるような、裕の優しさが嬉しかった。