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私と彼らの生活

第11章 Season 1 理由


次の日、朝家の仕事をしていると、仕事に行く前らしい拓が私を探してきた。

他の住人はすでに出勤した後だ。

「慧さん、ちょっとええかね?」

拓の声が少し緊張しているような気がした。

私は黙って頷くと、こっち来てと食卓に連れて行かれ、椅子に座らされた。その正面に拓が座る。

「裕と……その」

少し言いにくそうな拓。

テーブルの上で組まれた指が震えているようだった。

「できちょるの?」

他にうまい言葉が思いつかなかったのだろうか。

不倫してるだとかやってるだとかいうあまりストレート過ぎない言い方で拓は聞いてきた。

「……」

「昨日……その」

少し困ったような声音に私はあの事を言ってるんだと気付き、

「ごめん」

と謝った。

「違うんちゃ!俺、裕が慧さんのこと好きなのはずっと前から知っとったし、別に既婚者と関係持つのがそんなに悪いこととは思っちょらん。好きになってしもうたんなら仕方がないと思う」

ただ……と拓は続けた。

「俺、怖いんよ。裕は慧さんに本気じゃから。慧さんはどう思っちょるんか知らんけど、傷つけるようなことはせんとって欲しい」

拓は真剣な面持ちで私に訴えてきた。それから、

「裕と関係を持ったきっかけとか、聞いてもええ?」

昨日のあの状態。

拓には完全にバレてしまったのだろう。

話すべきか悩んで私は俯いてしまった。

「言いにくい、よな。なら質問、変えるね。裕との関係の間に順さんはおらん?」

順さんの名前が出てきて私は顔を上げた。

「やっぱりあの人が絡んじょるんじゃね」

拓の表情が困ったように歪められた。

あの人はほんま油断ならんでよと拓は呟いた。

「あの人にはほんま気をつけんさい。裕だけじゃのうて慧さんもダメになってしまうかもしれんけ」

拓の言っている意味はわからなかった。

「順さんと、何かあったの?」

「……ごめん。それはやっぱり俺の口からはよう言えん。ごめん」

拓はそれきり口を閉ざしてしまった。

何かを言いたくて伝えたいけど、心がそれを阻止している、そんな感じだった。

「変なこと言ってごめん」

拓はそう言うと出かけて行った。
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