第10章 Season 1 衝動
裕と、紘、そして翼と、それから私の間に妙な距離感と空気が漂い始めている。
好きだとか、嫌いだとか、愛してるとか、愛してないとか。
結局そんなことはやっぱり判らなくて、とりあえずどうすべきか答えが出ないまま一週間が過ぎた。
翼は私がバイトに行く日には必ず行く時間の前に玄関で待っていて、送り迎えをしてくれた。
裕は少し寂しそうな顔をして私のことを見ていた。
紘は、相変わらず忙しいのだろう。帰ってくる日は少なかった。
なんとなく気持ちがすっきりしなくて、落ち着かなくて。そんな私に、
「ねぇ慧ちゃん、ちょっとうちに遊びにこない?」
「今からですか?」
もうすぐ仕事が終わるって時に順さんから声を掛けられた。
「そう。だめ?」
「いや、迎えが来てるんでちょっと」
断ろうとすると、
「あら、誰?裕?紘?」
興味があるのかしつこく聞いてくる。
「いえ……」
「あら違うの?」
「最近は翼が来てくれてるんです」
つい口を滑らせて言ってしまった。
そしてなぜか翼の名前を出したとたん順さんの表情が変わった。
「ふぅん、そうなの。ならいいわ。代わりに10分時間ちょうだいよ。ジュース飲みながら少し話すくらいいいでしょ?」
「まぁそのくらいなら……でも絶対10分ですからね?」
「わかったわよ」
翼をあまり待たせたくなくて念を押した。
そして順さんがジュース買ってくるから待っててと行ってしまった後私は翼に、
少し遅れる。ごめん。
とメールを打った。
返事はすぐにきて、わかったとだけ表示され、心の中でもう一度翼ごめんと手を合わせた。
ほどなくして、順さんが紙カップをふたつ手に持って戻ってきた。
はい、とオレンジジュースが入った方を渡してくれ、
「ありがとうございます。いただきます」
受け取って口をつけた。
「慧ちゃん最近なんかあったの?」
「え?」
「いや、なんか表情が堅いなぁって思って。なんか悩みならあたしが聞いてあげるわよ?」
順さんは紙カップを置いて、タバコに火をつけた。
順さんの紙カップの中身はコーヒーのようだ。