第9章 Season 1 苛立ち
一息つこうと、私はキッチンに向かった。
時間が時間なだけに、あまりにも静か過ぎるその空間は、余計に私の心を締め付けようとしてくる。
考えないようにしようと思ってても、また次から次へと私の頭の中をいろんなことが駆け巡って行くようだった。
キッチンのシンク上の照明だけをつけようと手を伸ばしたが、スイッチに触れる前にその腕を伸ばしていた方向とは別方向に引っ張られた。
「……!!」
そこに裕がいた。
「ちょっと、どうしたの?こんな暗い中で」
「……翼と、何かあったの?」
暗くてほとんど何も見えない中、静かに裕の声が響いた。
「何って?」
「俺に、言えないようなこと?」
「……なにも、ないけど?」
多分、私の声は震えてたと思う。ぎゅっと下唇を噛んだ。
「ほんとに?」
「……うん」
「なら、信じる。けどっ」
裕は、そう言うと私をキッチンの壁に押し付けた。
さっき掴まれた腕はそのまま私の顔の横に押さえつけられる。
「でもっっ」
声が震えてる。泣いているのかもしれない。
「どう、したの?」
「……翼とも、やったんだろ?だから、あんな風に翼がずっと慧さんのことを監視してるんだろ?」
「監視?」
「面白い?そうやって、俺らの気持ちをめちゃくちゃに乱して」
「裕?」
「ねぇ慧さん、俺、貴女みたいにやっぱ割り切れないよ。貴女を抱くたびに貴女のことが好きになる。ねぇ、慧さんは俺の事、好き?」
「……好き、だよ。だけど、まだ、恋して、切なくて、苦しいそんな好きじゃ、ない」
それに私、割りきれてなんかないよ。
うつむきかけた私に、
「俺は、切ないよ。苦しいよ、毎日」
「……ごめん。でも、裕のことはすごく好きだよ」
「慧さんの好きと、俺の好きの次元が違いすぎるよ。もっと俺の事好きになってよ。俺、慧さんが、紘くんや、治さん、挙句に翼にまで抱かれるの、想像するのでさえ嫌なのに、俺に突きつけられるのはいつも、そういう現実。もう嫌なんだよ。お願いだから、俺だけだって、言って」
「……裕……」
見上げた裕は、泣きそうな顔をしていた。
私はこの人を酷く傷つけてしまっていたみたいだ。