第2章 分からない人
碧棺左馬刻と出会ってから、一週間が経った時、彼から連絡が来た。
女に不自由していないだろうに、こんな傷だらけの女を、何でわざわざ相手しようなんて思うんだろうか。
理解できない。
言われた場所に来て、その場所を見上げる。
「何か……キラキラしてる……」
看板がやたらとキラキラ輝いている、これはラブホで合っているのか。
とにかく言われた部屋へ向かう。
ノックをすると、中から明らかにダルそうな声がした。
中に入ると、ソファーの背の部分に後頭部を預け、眉間に深い皺を寄せて、碧棺左馬刻が目を閉じていた。
「遅せぇ」
目だけをこちらに向けて、それだけ呟いてまた目を閉じた。
「す、すいません。一応急いだんですけど……」
電話でも思ったけど、かなり疲れているみたいだった。
こんなので出来るのだろうか。
どうしたらいいか分からず、とりあえずソファーの近くに立つ。
「突っ立ってねぇで座れや」
隣をポンポンと叩いて、座る事を促されたので、彼との間を少し開けて座る。
「もちっとこっち来い、膝貸せ」
言われ、少し近づくと膝に頭を乗っけるように、彼は寝転んだ。
大きなため息を吐いて、目を閉じてしまった。
私はとりあえず、出来るだけ動かないようにじっとしておく事にした。
しばらくそうしていると、規則正しい寝息が聞こえて来た。
彼を見下ろしながら、好奇心が湧いた私は、起こさないように彼の柔らかな髪に触れた。
少しピクっと反応しただけで、特に何も言われなかったので、前髪から頭頂部に掛けて優しく撫でたり、髪の間に指を入れて梳く。
「くすぐってぇ……」
「ご、ごめんなさいっ……」
突然の声に素早く手を引っ込めようとした手を、彼の手が制止する。
「いいから、続けろ」
何故か許しが出たので、改めて髪に触れた。
「髪、綺麗ですね」
「あ? 気にした事ねぇな」
赤い目が私を見つめて、手が伸びてくる。
「お前の髪のが綺麗だろ」
髪先を指に絡めて遊びながら、見つめられて少しドキリとする。
「ん」
顎をクイッと動かし、何かを訴えてきた彼の行動に、思考を巡らせる。
多分、キスをしろと言われているのだろう。