第6章 その手で守って激しく癒して
不思議そうに立ち上がり、左馬刻さんが私の空けた場所に移動する。
寝転ぶ左馬刻さんに、添い寝するように寝転んで、左馬刻さんの頭を抱きしめる。
「左馬刻さんがどんな事してるかなんて、聞いたりしません。でも、無理はしないで下さいね。もし、どうしても疲れた時は、私がこうやって甘やかしてあげますから、目いっぱい甘えて下さいね」
左馬刻さんの頭を撫でながら、目を閉じる。
「ふっ……そりゃ、ありがたいね……」
頭を私に擦り付けて、笑った左馬刻さんの手が腰に回された。
抱き合いながら、ゆったりとした時間が流れる。
「たまにはこういうのも、アリだな……」
呟いて、左馬刻さんは笑う。
目を閉じて、静寂の中で左馬刻さんの息遣いを聞いていると、また眠気が訪れる。
あっという間に眠りの中に引き込まれて行く。
それから二日後、私は退院した。
あの事件から、私は元彼の話を聞く事はしなかった。聞いてはいけない気がした。
何より、もう忘れたかった。
左馬刻さんの運転する車に乗り込む。
「ちょっと、寄り道すっぞ」
「えと、何処へ?」
「ま、黙って乗ってろ」
助手席で、窓の外を見ながら何処へ連れて行かれるのか、私は久しぶりにワクワクしていた。
着いたのは、海だった。
手を繋いで、海を歩く。
「私、海に来たの、初めてです」
「は? マジかよ……」
そんなに驚く事だとは知らなかった。
「そもそも、あんまりゆっくりこういう時間が取れなかったって言う方が正しいですね」
ふわりと吹く風が気持ちよくて、目を閉じて肺いっぱいに空気を吸い込む。
潮の香りが鼻をくすぐって、頭がスッキリする感じがした。
「」
「はい」
「……俺は、ヤクザで、しかも若頭だ」
「えっと……知ってます」
突然何を言い出すかと思えば、今更そんな事を言われても、困ってしまう。
「安心安定、落ち着いた生活なんてもんは、多分手に入らねぇ」
左馬刻さんは、どうしてこんな話をするのだろう。
今までだって、私の生活に安心や落ち着きなんてなかったし、下手すれば今の方が余程幸せだ。
「それでも、俺のそばにいる自信、あるか?」
左馬刻さんの赤い目が、真正面からしっかり私を捉える。