第1章 その出会いは最悪
彼氏なんて、呼びたくもなかった。
半ば無理矢理に近い形で関係を持たされ、不本意にも彼女にされてしまった。
でも、弱い私は怖くて抵抗すら出来なくて、彼との関係を切れないでいた。
気に入らないと殴られ、殴られたくないから従う。
大人しくしていれば、優しくしてくれる時もあった。
ありがたい事に彼は私に執着していたから、彼にさえ足を開いていれば、ガラの悪い仲間がいたけど、輪姦されるなんて事はなかった。
でもその生活も、一年が経つかというところで、突然終わりを告げた。
あの男から解放されたのは嬉しいけれど、今のこの状況はさすがに喜べない。
今私は、ヤクザの事務所にいる。
彼氏として存在した男のいた、火貂組の事務所だ。
連れてこられた人達に突き飛ばされた体は、フラフラで床に思い切り倒れてしまい、痛さに呻いた。
〔私……消されるのかな……〕
それに関しては、特に怖さはなかった。ここまでの最悪な状況になってしまった今では、もう諦めまできている。
どうにでもなれだ。
立派な机に足を上げ、タバコを吹かしている男を盗み見る。
この男の話は聞いた事があった。
火貂組若頭、碧棺左馬刻。
明らかに不機嫌そうな顔で、私を見下ろしていたけれど、その迫力が怖くて直視出来ない。
「お前等は下がれ、後、人払いしとけ。おい、女、お前はこっち来い」
彼の圧力の恐ろしさに動けないでいると、それが癇に障ったのか、元々迫力ある声がより低くなり、ドスの効いた声が静かに響いた。
「聞こえなかったか? さっさとしろ」
震える体を必死に動かして、出来るだけ早く彼の元へ向かう。
立ち上がり、私の前に立った彼は背が高くて、俯いている私には幸い顔が見えなかった。
それに安堵していると、突然顎を掴まれて顔を上げられ、バッチリ目が合ってしまう。
白髪に赤い目が鋭くて、話に聞いていた通り、凶暴そうな見た目だけれど、物凄くいい男だ。
女に苦労してないんだろうな。
「ほぉ、なかなかいい女だな。あんなクソ野郎には勿体ねぇな」
そう言って口角を上げて笑った彼に、心臓が少し反応した。
この人なら、私を楽にしてくれるだろうか。
なんて自暴自棄になって、私は口を開く。