【名探偵コナン】生まれ変わったら名探偵の姉でした。
第12章 〜『Goddess』前編【原作4年前】〜
───あの時、貴女に救われた出会いをきっと覚えていないでしょうね。そしてアレの正体が私だって事にも気づくことはない───
高級ホテルでパーティの最中に一人の男が撃たれた。私と『彼女』と『彼』の前で、何処からともなく心臓を撃ち抜かれた男は地面に倒れ伏す。まるでスローモーションのように、私の目にはゆっくりに見えていた
男の胸部を中心にじんわり高級なカーペットに血が滲んで、一連の光景を見ていた周囲が悲鳴を上げて逃げ惑って混乱する。すると誰かの「頭を下げて」という叫びで、全員がその場に屈むもそれ以降銃撃は来なかった
───【例えどんなに危険な犯罪者でもね、そのまま死んで良い理由にはならないよ。きちんと自分が犯した罪に向き合い、生きて正当な罰を受けるべきだと思う】───
───【それに私は目の前で怪我をしたり、死にそうな人を放っておけない。誰かを助けるのに理屈や思考はいらないんじゃないかな?】───
男はピクリとも動かない。彼が「救急車と警察を!」と周りに呼びかけながら男に近づいた。私も慌てて駆け寄ろうとしていたけど、何故か彼女に腕を掴んで止められた
───そこには平等の救済だとか、綺麗な正義や慈悲もなく、只ひたすらに無情の死だけが存在した。まるで暗くて冷たい氷のよう、そんな深淵と闇の世界だった……。そんな血濡れた絶望の世界を見つめてずっと生き続け、希望など無いと心を病んでいた私に貴女が救いをくれた───
───それは組織の任務でとある企業と裏取引をしていた時の事、何故か嗅ぎつけて来た犯罪グループと交戦になった。それで怪我を負って逃走していた私に路地で遭遇したのが、当時小学生の工藤椎奈だった。彼女は武器を持って警戒している私に近づき、ハンカチで傷を抑えてくれて優しい笑みを浮かべていた───
───綺麗で柔らかな親譲の愛らしい微笑。私に注がれた一筋の光。その表情が、その手が、その言葉が私を癒してくれた───
咄嗟に彼女を振り返ってみると、彼女の瞳が真っ直ぐ私を見据えて落ち着いた声が「行ってはダメよ」と訴えた
───「行ってはダメよ。近づきすぎては危険だわ」───
そう言って私を守ろうとする彼女は、私の事を『goddess』……女神と呼んだのだ