第2章 ─ こいすてふ ─
「はぁ。弥一様の好みですか……」
しかし、意外と応えてくれるようで。
その場にいた誰もが固唾を飲んで見守る中、ひと息ついた糸魚川さんが口を開いた。
「そういえば、弥一様が書生の頃。派手な女性はもう嫌だ……と、独り言を呟いていたことがありましたな」
……何があった!若かかりし頃の旦那様!派手な女性に何かされたのですか!?
……いや、でも、それなら───
「派手な方が苦手ということは……旦那様の好みは私ってことになりますよね!?」
「一概にそうとは限りませんよ?」
思わず椅子から立ち上がる私に、ヤチヨさんが冷静に言った。
「旦那様も派手でなかったら何でもいいわけじゃありませんよ。きっと」
「えー…なら、どういう女性が好みだと思います?」
「そうですねぇ。旦那様の性格からして───」
それから話題は【旦那様の女性遍歴(想像)】へと変わり、場は女中さんを含め大いに盛り上がった。
一方糸魚川さんはというと『次の仕事がありますから……』と逃げるようにお屋敷から去って行ってしまったのである。