第2章 ─ こいすてふ ─
「……旦那様は前の方がお好きかしら?」
無意識に口に出すと、傍にいた女中さん達は目を合わせて苦笑する。
糸魚川さんはお茶を噴き出しそうになり、口元をハンカチで拭いながら『お嬢様……』と窘めてきた。
しかし、ヤチヨさんだけは違う。
「旦那様はここへ来た当初のお嬢様を『細すぎて折れしまいそうだ』と仰っていたのでそれはないと思いますよ」
「ホント?なら……旦那様はどのような女性が好みなのでしょう?」
ずっと聞いてみたかった質問を投げかけてみる。
すると、ヤチヨさんは訝しげな表情を浮かべた。
「旦那様の好み……そうですねぇ。女性を屋敷に連れてきたことがないので私からは何とも」
「え……ヤチヨさんが知らないのなら……」
と、自然と皆の視線が糸魚川さんへと向いた。
ここへきて少し申し訳ない気持ちになる。
いくら旦那様の教育係とはいえ、男性の前でする話では無かったかもしれない。