第1章 ─ しのぶれど ─
名前を呼ぶと、少し落ち着いたのかようやく顔を上げてくれてホッと胸を撫で下ろす。
今にも泣きそな顔で、目を赤くする少女の頭を無意識に撫でていた。
「辛かったね。今までずっと」
ありきたりな慰めだが、本心だった。
こんな細い身体で十六の少女が背負った悲しみを考えると、それはあまりにも大きく耐え難いものだ。
素直で、優しく、頑張り屋なのだろう。
やはり、総司さんの娘さんだ。
「ここで一緒に暮らそう」
どこへも行くところがないのなら、私が預かろうと思った。
華やかな屋敷ではないけれど、遊郭で働くよりはましだろうと。
すると少女は一瞬驚いた顔をして、すぐに伏し目がちになり、遠慮するような素振りを見せた。
それでも嫁ぐまではここいなさい。と言うと、観念したのかやっと頷いてくれて。
憂い顔から安心したような笑顔をみせる少女に目を細める。
そして、丁度いい位置にある額を撫でると、嬉しそうに目を閉じた少女にやはりあの時の子犬の面影が重なった。
……案外この子となら、楽しく過ごせるかもしれない。
そんな確信に似た予感がして、自然と口から零れていた。
今日から君はうちの子だよ。と……