第6章 ─ ちぎりきな ─
「こういう時だけは我儘だね」
そう旦那様が低い声で囁いて、今度は噛み付くように口付けをされた。
ビクン、と震えた拍子に侵入した舌が口の中をゆっくりと舐め回す。
「んっ………は、……っ」
大人の口付けは、息の仕方が分からない。
とろりと頭の芯が痺れて、身体の力が抜けていく。
長い口付けを終え、離れた旦那様は私の頭を撫でてくれる。
子供扱いなのは分かっているけど……旦那様になら頭を撫でられても許せる。
というか、好きみたい。
熱い唇に触れて、余韻でぼーっとしている私に旦那様はポツリと呟いた。
「屋敷に着くよ。その可愛い顔を何とかしないと、皆に勘付かれてしまうね」
「え………あ、ちょっと待ってください!」
もう旦那様が色っぽすぎるから!!
熱くなった顔を冷やそうと顔に手を当てる。
深呼吸をして息を整えていると、御屋敷の前に着いてしまった。
「平気かい?」
「……はい。大丈夫です」
馬車の扉が開いて、旦那様の手を受け取る。
「お帰りなさいませ。お疲れ様でございます」
いつものように、出迎えてくれたヤチヨさん達に安心して気が緩む。
私……これからも、皆と一緒にここにいていいんだ。
それから、ぶわっと嬉しさが込み上げてきて、思わずヤチヨさんに飛び付いてしまった。
「あのね!私、旦那様のお嫁さんになるの!」
私のいきなりの発言に皆はきょとんとして、旦那様に視線を移す。
「ははっ……祝言はまだ少し先だけどね」
否定せず、照れたように笑みを浮かべる旦那様を見た瞬間。
驚きと喜びの声が私の耳に飛び込んできた。