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呪術夢短編集

第5章 初詣(七海)


「そ、その嬉しいわ…建人さんにそう思ってもらえて…」
「いえ…その…事実…ですから」

 そんな歯切れの悪い会話をしている二人を尻目に、着付け師達は挨拶を述べてから去っていく。小夜子は赤らむ顔のまま、彼らを見送るとこの空間に取り残されるのは自分達二人だけだ。この状態で二人きりになるのは、なんとなく気まずい。そう思った七海は、小夜子が戻ってくるとエスコートするように手を差し「私達もそろそろ出掛けましょう」と声を掛ける。小夜子はにこりと微笑むと、差し出された手を取った。


 かくして家を出た二人は、最寄りの神社へと赴くことにした。出始めこそは気恥ずかしそうにしてた小夜子も、今ではしっかり七海の腕に自分の腕を組ませている。時折ちらちらと見上げてきては、ふふっと嬉しそうに笑うのを繰り返している彼女の様子は、可愛らしく思えて仕方ない。だが、それと同時に気になって仕方がないものもあった。それは周囲からの視線だ。
 七海自身の容姿が日本人離れしているせいか、先程からやたらと周囲に視線を集めてしまっている。いや、普段の格好ならここまで視線は集めないのだ。だが、今和服を着ているというある種特異な状況のせいで何時も以上に見られている。そんな気がした。正直あまり良い気分はしない。

「皆、建人さんが素敵だから見ちゃうのね〜」

 七海のそんな心境を知ってか知らずか、小夜子はのんびりとした口調でそう言った。本当にそうだろうか、と思ってしまったが、彼女にとってはそうなのだろう。何せ、小夜子にとって七海建人という男は『世界で一番素敵な男性』なのだ。自分の事をそう思ってくれている彼女が喜んでいるのだから、周囲のことなど気にするのは止めてしまおう。七海はいつの間にか寄っていた眉間を緩め、ふっと笑うと「ありがとうございます」とだけ言った。

「私としては、貴女の方が余程素敵だと思いますけどね」

 七海がそう続けて言えば、小夜子はたちまち顔を赤くして「もう、本当お上手ね!」と返してくる。やはり一々反応が可愛らしい。

「お世辞など言える程、私は器用な男ではありませんよ、小夜子さん」
「さらっとそんな事を言えてしまう人の、どこが不器用なのか知りたいわ」

 そんな軽口を叩いていれば、不思議と彼女以外のものは何も気にならなくなった。
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