第10章 聞こえるのはあなたの音【音好きシリーズ】
「肩に傷ねぇ…いい見た目してるのに…もったいないねぇ」
遊郭、ときと屋を取り仕切る女将が、言葉の通り本当に残念そうな目線を私へと向けている。
「ひどい傷ではあるが、こいつの琴の腕は良い。舞の才もある。太鼓女郎としては一級品だ。高く買ってくれとは言わねぇ。なんとか女将さんのところで面倒見てくれねぇか?」
そう言って天元さんは、私の肩を掴み、ズイッと女将さんの方に強い力で押した。
肩にひどい傷があるのは事実だ。そして見た目よろしくないことは、自分でも承知している。けれどもそれをいくら相手が天元さんとは言え、改めて"ひどい傷"と言われるのは流石にこたえるものがある。
"美しい"
醜いはずの傷跡に暖かい視線を向け、そう言って優しく撫でてくれた炎柱様の手の感触が頭に甦る。
私がそんなことを思い出している間に
「よし!買おうじゃないか!代金はこれでどうだい?」
無事、商談は成立したらしい。
そう言って女将さんが差し出したお金を、天元さんはほとんど確認することもなく受け取り
「ありがとうな」
と言いながら満面の笑みを浮かべ懐にしまった。
「それじゃあ、すずね、達者で暮らせよ」
ポン
と私の肩を一度叩くと、
「頼んだぞ」
と私にだけ聞こえる声量でそう言い、さっさと店を出て行ってしまった。
任せてください。
心の中でそう呟き、
「さ、じゃあこっちに来な。えっと…」
「すずねです」
「そうかい。すずね、まずは琴の腕を確認させてもらおうかい。こっちに来な」
私は"鬼殺隊士柏木すずね"から、"太鼓女郎柏木すずね"へと姿を変えた。
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太鼓女郎としてお勤めを始めて2日。
変な女の子が売られてきたらしいよぉ
と、同じく太鼓女郎を務める子が言っていた。チラリと見えた後ろ姿に、私は驚愕した。
…天元さん…炭治郎君をこの店に…売ったの?え?売れたの?いやいや炭治郎君男の子だし、あれをどうして買うの?え?化粧映えする顔なの?
そんな失礼とも思われる事を考えながら、私は炭治郎君の気配を追いかけ廊下を急ぎ歩いていた。
角を曲がり目に入って来たのは、両手に大量の荷物をなんとも絶妙なバランスを保ちながら運ぶ炭治郎君の後ろ姿。