第9章 こんにちは赤ちゃん【暖和】
杏寿郎さんの大きな手のひらが、私の頬に優しく触れ、段々とその顔が近づいてくる。私はゆっくりと目を閉じ、その時が来るのを待った。
ちゅっ
私は杏寿郎さんと交わす、この優しい口付けが堪らなく好きだ。
目を開けると、とても至近距離で杏寿郎さんと目が合った。
「… 奏寿郎は、2.3時間であればすずねと離れても問題はないだろうか?」
杏寿郎さんは少し迷ったような口振りで私にそう問うた。
「その位であれば問題ないかと思いますけど…。奏寿郎はミルクも問題なく飲んでくれますし、搾乳をしておけばそれをあげてもらえれば済みますし…」
「そうか…。内祝いを買いに行きたいのだが、流石にまだ奏寿郎を連れて歩くには些か早過ぎる。すずねさえよければ、奏寿郎を母上に頼んで、2人で買いには行けないだろうか?」
内祝いを買いたいというのは本当であろう。けれどもその裏に、"ほんの少しだけでも2人きりで過ごしたい'という気持ちがあるような気がしてならなかった。
愛する旦那様からのそんな提案を、断るはずがない。
「では、瑠火さんの都合を聞いて近いうちに行きましょうか」
私がそう答えると
「いいのか?」
杏寿郎さんは、私の答えが意外だったのか、目を見開き驚きながらそう言った。
「はい。…久々の、デートって感じで楽しみです」
「っ俺もだ!」
そう嬉しそうに言った杏寿郎さんは
「母上に予定を聞いてくる!」
慌てて立ち上がり、あっという間に部屋を出て行ってしまった。
杏寿郎さん…襖、閉め忘れてる。
「…っかわいい人」
奏寿郎のことも、
杏寿郎さんのことも、
心から愛している。
比べることなんて出来ない。
「久々のデート…楽しみだな」
私は奏寿郎の幸せがたっぷりつまった柔らかなお腹を撫でながら、杏寿郎さんと久々に2人きりで過ごせる時間に思いを馳せたのだった。
-完-