第42章 推すのに忙しい私を押してこないで*煉獄さん
一度はお断りさせてもらった私だが
”私がすずねちゃんに着てもらいたいの!”
なんてことを満面の笑みで言われてしまえば断れるはずもなく、譲り受けさせてもらうことにしたのだ。
最近ではすっかり頂いた着物を着るようになったことが功を奏し、蜜璃様は今現在目の前にいるのが”私”であるという結論にはたどり着かなかったのだろう。
「わはは!甘露寺は相変わらずだな!ほら!伊黒が待っている!もう行くといい!」
「…そうね!これ以上2人の邪魔をしちゃうのも悪いし…これで失礼します!」
蜜璃様のその言葉に
…よかった…何とかバレずにすんだ
そう思った私だが
「そこの煉獄さんの羽織の中にいる女の子!」
思いがけず声を掛けられてしまいドクドクと胸が不穏な音を奏で始めた。流石に無視をするわけにもいかず
「…っ…はい…!」
裏声を使い、普段の私のそれよりもかなり高めの声で返事をする。
「折角のデートを邪魔しちゃってごめんなさい!今度改めてあなたとお話ししたいんだけど…どうかしら?」
ゆっくりとした口調でそう尋ねてくる蜜璃様に
…蜜璃様ったら…優しい!可愛い!大好き!!!
私の心は、先ほどとは一変しお祭り騒ぎが始まりそうな勢いだ。
「…は…はい…!」
蜜璃様は、相変わらずの裏声で答えた私に
「ありがとう!とっても楽しみにしているわ!」
そう言うと、最後に”煉獄さん!お邪魔してすみませんでした”と言い残し、その場を去って行った。
蜜璃様の足音が完全に遠退き、それから10秒ほど時間が経過した後
「危なかったな!伊黒が甘露寺についてこなかったのが幸いだ」
煉獄様はそう言いながら、私を覆い隠していた羽織をさっと取り払った。
「どうかしたのか?」
羽織を取り払ったにも関わらず煉獄様の胸元から離れようとしない私の様子に
「柏木?」
煉獄様が心配げに問いかけてくる。