第41章 今世の私も、余す事なくもらってください✳︎不死川さん※微裏有
部長は無理矢理引き留めるのも後々会社の評判に響くと判断したのか
"そうか…残念だけど、そう決めたなら私に止める権利はない。手続きがあるから何度か来てもらわないと駄目だけど、もう帰っていいよ"
冷めた表情を浮かべそう言った。
"はい。本当に申し訳ございませんでした"
最後にもう一度部長に向け深く頭を下げた私は、荷物を纏めるべく自分のデスクへと向かった。
特に個室に入ることなく、始業前にみんなのいる事務所で部長に退職届を出してしまったので、同期や、よくしてくれた先輩達が私のところまで来てくれた。
中には
"あのボンボンのせい?"
と心配気に聞いてくれる人もいた。そんな問いに対する私の答えは
"あながち間違いではありません!でも私、あの人には感謝したいくらいの気持ちなんです"
"…へ?"
首を傾げたくなるような答えだったらしく、その反応が面白くて私は笑ってしまった。
出社早々帰り支度を始め、仕事を始めるみんなの波から逆行するように出口に向かう私を、みんなが不思議そうな目で見ている。
そんな波の中に
「あれぇ?帰っちゃうの?」
七光先輩の姿が。七光先輩は私の方にスタスタと近づいてくると
「具合悪いの?それとも…俺が怖くて逃げるとか?」
私にグイッと顔を寄せながらそう尋ねてきた。私はそんな七光先輩にニッコリと微笑みかけ
「本日付で退職することになりました!全て七光先輩のおかげです!ありがとうございました!」
そんな私の言葉に
ブハッ
私たちの周りにいた数人が吹き出した。
「……七光…先輩…?」
小さく呟きながらまんまるな目で私を凝視してくる七光先輩の様子も、肩を震わせプルプルしている周りの様子もどちらも気にすることなく、私は言葉を続ける。
「実弥さん…あ、私の婚約者なんですけど、社会人経験を積んでからじゃないと結婚しないと言われていたんですけど、七光先輩が煽ってくれたお陰で、すぐに結婚してくれることになったんです。だから七光先輩には感謝の気持ちしかありません!本当にありがとうござました!」
私は先程部長にしたのと同じくらい深いお辞儀を七光先輩に向けしてみせた。