第39章 あなたの声は聴こえてるよ✳︎不死川さん※微裏
…そういえば…ここで不死川と口喧嘩したこともあったっけ…
目をつぶり、自然の音に耳を澄ませていると、それをかき消さんばかりの勢いで不死川との口喧嘩が蘇ってくる。
「女の癖に出しゃばんじゃねェ!あんな雑魚鬼俺一人で十分だったんだァ!」
「はぁ!?女とか男とか…隊士として戦ってる以上そんなの関係ないから!馬鹿にしないでくれる!?っていうか、私があの時飛びださなかったら、あんたそんな怪我じゃ済んでないからね!?」
「誰がいつ庇って欲しいなんて言ったァ!?」
「言われてないわよ!でもねぇ!同期の仲間に危険が迫ってたら助けんのは当たり前でしょう!?そんなんもわからないわけ!?」
「男庇って女が顔に傷作るなんざあり得ねェんだよォ!娘の顔に傷でも残ったらテメェの母ちゃんが悲しむだろうがァ!」
「……はぁ?」
「ア゛ァン!?…………ッチ!余計な事言わせんじゃねェよこのくそ女ァ!!!」
最後に不死川から放たれた言葉は、そこだけを切り取ってみればただの汚い悪口だったが
……耳真っ赤じゃん
綺麗な白髪を際立たせるように赤く染まった耳が、乱暴な言葉の奥に隠された極めて分かりにくい優しさを際立たせているようだった。
今考えると、あの日の出来事が、私が不死川のことを”ただの同期”ではなく”一人の男”として見てしまうようになったきっかけだったと思う。
それ以降、合同任務の相手が不死川だと心強かったし、骨の折れるような任務も気合を入れて頑張れた。
かけがえのない同期で、かけがえのない仲間だったのに
「……不死川…」
気が付いた時には、かけがえのない”大切な人”に変わってしまっていた。
でもそれは、私だけが抱く感情で、鬼殺に命を懸けている不死川にとっては邪魔にしかならないものだと思っていた。だから自分の中に芽生えた感情を摘み取り、今の不死川に、私以上に長い時間を過ごす異性はいないと高を括り、同期として、友人として、側にいることを選んだのに。