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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第37章 大きな背中を抱きしめさせて【暖和】


「ただいま戻りましたぁ」


久方ぶりの単独任務から戻り、大抵杏寿郎さんと2人並んで潜る煉獄家の玄関を、今日は私一人で潜った。すると台所のほうからパタパタと軽い足音が近づいてくる。


「すずねさん。お帰りなさい」

「ただいま。千寿郎さん」


出迎えてくれたのは千寿郎さん一人だけで


…あれ…杏寿郎さんはどうしたんだろう?


非番で在宅の筈の杏寿郎さんの姿は現れない。


おかしいなぁ…大抵私が単独任務から帰ってくると怪我の有無を確認しに飛んでくるんだけど…?


草履も脱がず、千寿郎さんの奥にある廊下の向こう側を覗いてみるもやはり杏寿郎さんが現れる気配はない。


「兄上は今、縁側で炎の呼吸の指南書を読んでいます」

「あ、成る程」


私はそう言いながらようやく草履を脱ぎ、それをキチンと揃えた。

杏寿郎さんは非番の際、縁側で胡坐をかきながら炎の呼吸の指南書を読み耽っていることがある。私からすれば完璧に見える杏寿郎さんの型も、杏寿郎さん曰く


”父上に比べれば俺もまだまだだ!”


ということらしく、とても熱心に、尚且つその内容が酷く興味を惹かれるもののようで、普段よりも口角をきゅっと上げ、楽しげな表情でそれを読んでいた。そんな時は大抵話しかけても反応してくれないし、下手をすれば食事も取ってくれない。


玄関にある時計をチラリと見ると、もう間もなく昼餉の時刻になる。


「お昼の準備はもう済んじゃいました?」

「はい。あとは盛り付けるだけです」


千寿郎さんと会話を交わしながら煉獄家の長い廊下を並んで歩いていく。


「そっかぁ…それじゃあ私、杏寿郎さんに声を掛けてくるね」

「お願いできますか?俺も何度か声を掛けたんですが、全く耳に入らないようで」

「杏寿郎さん、夢中になると時間もなにも忘れちゃうもんね。まったく困った兄上だ」

「ふふっ…そうですね」


くすくすと笑い合いながら台所の前まで来ると、千寿郎さんはそのまま台所へ、私は未だに炎の呼吸の指南書を読み耽っているであろう杏寿郎さんがいる縁側へと向かった。

そこへ向かう途中


…あ、そうだ


何となくいたずら心が沸いてしまった私は、気配を断ち(どちらにしろ気がつかないだろうが念のため)、杏寿郎さんの視界に入らないようこっそりと部屋の方を回りながら縁側へ向かうことにした。

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