第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
可愛いお母さんに連れられて初めて私の家まで挨拶に来た時
”同じ顔がならんでる。この見分けがつくなんてこの子たちのパパとママは凄いな”
なんて大変失礼なことを思ったのを鮮明に覚えてる。
””すずねちゃん、おはよう””
”おはよう有一郎。無一郎”
弟か妹が欲しかった私としては、私によくなついてくれた双子の兄弟が可愛くて可愛くて仕方がなかった。
けれども6歳も年下であるとは言え女の子と男の子。思春期を迎えればいくら小さい頃から知っているお隣さん同士とはいえ距離が出来てしまうのは自然の成り行きで、寂しくないわけではなかったが私自身も交友関係が増えたこともあり、有一郎とも無一郎とも、話す機会は減っていった。
その関係に急激な変化が訪れたのは間違いなくあの時、16歳の秋のある日。私の家からそう遠くない公園での出来事からだったと思う。
あの日、私は初めて出来た同級生の彼氏と公園のベンチでキスをしていた。誰もいなかったし、喧嘩の後の仲直りで変に気持ちが盛り上がっていたんだと思う。目を開けフフフと笑いあっていると、その彼氏が急に焦りだした。どうしたのかと思い振り返った先にいたのが、じっとこちらを無表情で見ている無一郎だった。
無一郎に挨拶をしても無視されるようになったのはそれからだ。それでも
”あんなところを見せちゃったし…仕方ないか”
その位にしか思わなかった。
挨拶もしない日々が半年ほど続き、またしても関係の変化が訪れた。
腹が立つくらいに麗らかな春のある日。私はベンチで一人泣いていた。大好きだった彼氏に”他に好きな子が出来た”と驚くほどにあっさりフラれたのだ。ぐずぐずと鼻を啜りながらフェイスタオルに顔を埋め泣いていると、不意に隣に誰かの気配を感じた。
驚き顔を上げると、隣にいたのは無一郎だった。無一郎はぼんやりとも見える穏やかな表情で正面を向きながら私の膝にイチゴミルクの飴をひとつ置いた。それは私がよく有一郎と無一郎にあげていた飴だった。
”…ありがとう”
"彼氏に振られた?"
"…まぁね。他に好きな子ができたんだってさ"
"ふぅん。すずねを振るなんて馬鹿な男だね。まぁ、僕としては感謝したいくらいだけど"
"え?"