第33章 泣き虫鳴柱は長男に甘えたい✳︎炭治郎
「炭兄!任務お疲れ様!」
「すずね!お疲れ!」
眉の下で切りそろえられた前髪をゆらし俺に近づいてくるのは、少し前に泣きながら鬼と対峙しているところを助けた雷の呼吸の使い手のすずねという隊士だ。
「やだもぉ…あっち行ってよ!」
目に涙をなみなみと溜め鬼と対峙している姿を見れば、感じ取れる匂いからして、自分以上の強さを有していることがわかっていても助けに入りたくなってしまうのは男として、6人兄弟の長男として当然のことだ。気が付いた時にはその人と鬼の間に割り込み
「大丈夫ですか!?」
と、その人を背に隠すような形で鬼と対峙していた。
「…はい…!」
その時、背後から香ってきた懐かしい匂いに、ぎゅっと心が僅かに軋んだ。
無事鬼の頸を切り終え振り向くと、その子はもうすっかりと泣き止んでおり、もじもじしながら俺のことをじっと見ていた。
その姿が、今はもう会うことのできない妹のそれと重なった。
「随分と怖がっていたみたいだけど、怪我はしていない?」
怖がらせないようにゆっくりと近づきながらそう聞くと
「…はい!大丈夫です!全然…怪我は…っありません!」
頬をポッと赤くしながらそう答えた。
「そうか!それはよかった」
相変わらずその子から香ってくる匂いは、末の妹の花子が俺に甘えたいときに香ってくるそれと同じで、俺の長男スイッチを強く、それはもう強く連打してくる。
その子の前で立ち止まると、俺の目線よりも5センチくらい低い位置からじっと上目遣いで見つめられる。そんな様子に思わず右手をその子の頭に乗せポンポンとと優しく頭を撫でると
「…っ…!!!」
目をキラキラ輝かせ、より俺の目をじっと見つめて来た。
なんて可愛い子なんだ…!
思わず心の中でそう呟き、その子の頭に手を置いたまま天を仰いでいると
「…っ私!柏木すずねです!」
「すずねか。いい名前だな!」
「…ありがとう!あの…あなたの名前は?」
「俺は竈門炭治郎」
俺がそう名乗ると、すずねはさらに目をキラキラと輝かせ
「…あ!なるほど!」
と、言った。