第30章 2人で初めてのmerryXmas【暖和】
杏寿郎さん…すねちゃったのかな?
…可愛いっ!
そんな杏寿郎さんの様子に、胸がキュンキュンと甘い音を立てる。
玄関から上がり、ようやくリビングへと続く廊下に足を踏み入れた杏寿郎さんは、ぐっと私の顔にその端正な顔を近づけ、依然として不満そうな顔をしたまま私の目をじっと見つめてくる。
私はそんな杏寿郎さんの顔からフイっと顔をずらし
ちゅっ
と、わざとらしい音を立て、外から帰ってきたばかりで冷たい左頬に軽いキスを落とす。
そのまま左耳に口を寄せ
「拗ねてる杏寿郎さん…すごくかわいいです」
「…っ!」
まるで内緒話でもするようにこっそりと、杏寿郎さんの耳にだけ届く声量でそう囁いた。
そんな私の行動に、杏寿郎さんはバッと左耳を左手で抑え、ただでさえいつも大きな目をさらに見開きながら私の顔をじっと凝視してくる。
そのまま5秒ほど凝視され続け、流石に恥ずかしくなってきた私は
「…杏寿郎さん…?」
静かにその名を呼んだ。
その直後
ガシッ
先ほど触れた杏寿郎さんの頬とは違い、暖かな温もりを持つその大きな両手の平に頬を包み込まれたと認識した直後
ちぅぅぅぅぅぅぅ
「んむぅ!」
私が先ほど杏寿郎さんの頬に送ったそれとは比べ物にならない程濃厚なキスが私の唇に落とされた。驚きで、目を閉じることすら忘れてしまった私は
ちゅ…ちぅ…ちゅっ
目の前に現れた、今はしっかりと閉じられた、羨ましいほど長くフサフサなまつ毛をただ視界に映していた。
口内に杏寿郎さんの熱い舌が侵入してくる様子はないものの、私がしたものとはまるで種類が違うその濃厚なキスに
…そんなにされたら…私…
思考がぼんやりと甘い空気に飲み込まれていく。
ちぅぅぅぅぅぅぅ
最後の仕上げと言わんばかりに唇を吸われた後、軽い音を立てながら杏寿郎さんの唇がようやく私のそれから離れていった。
離れて行く杏寿郎さんの顔から目を逸らせずにいると
「…仕返しだ」
「…っ…」
目を細め、いつもの太陽のような明るくまぶしい笑顔とは違う、大人の色香がたっぷりと漂う笑みを浮かべながらそう言った。