第5章 その姿は俺だけの前で【暖和】
「…っ何これ…!」
前回の任務で派手に破けてしまった私の隊服。こんなにボロボロではいざとなった時に身体を守れないと思い、急いで代わりのものを頼んだら、より身体の守れなさそうな隊服が私の元に届いた。誰の仕業かなんて聞かなくてもわかる。
「…あの…ゲス眼鏡ぇ…」
まさか自分にまでこんなものを寄越すとは。今すぐ日輪刀で切り刻んでやりたい…程の気持ちはあるが、私はこれから任務に行かなければならない。しかも、今回は現地にて杏寿郎さんと合流する予定。遅れて迷惑をかけるわけには行かない。こんな事であればボロボロであってもあの隊服を手元に置いておけばよかったと思うが、すぐ代わりを持ってくるからと回収されてしまっていた。今考えるとそれも奴の陰謀だったのだろう。
「…仕方ない。着るだけ着てみるか」
そうして渋々着替えてみたそれは胸元はきちんと閉まっているものの(悲しいかな私は蜜璃ちゃんほど豊満なバストを持ち合わせていない)、丈がとにかく短い。幸いスカートタイプではないが、短い。短すぎるのだ。
「こんな格好で…外を歩くなんて無理!」
けれども任務は待ってくれない。仕方ないと羽織を身につけてみるが杏寿郎さんが元々身につけていたものという事もあり若干長めにはなっているが、脚の露出度に関しては殆ど変わらない。
どうしよう。
短い隊服の裾を一生懸命伸ばしていると
「任務ぅー任務ぅー早く行けぇー」
と相棒がバサバサと羽を羽ばたかせ騒いでいる。
「…っわかってるよぉ」
もう腹を括っていくしかない。私は立ち上がり、日輪刀を腰に刺すと静かに部屋の襖を開け左右を確認する。
よし。千寿郎さんはいない。
こっそりと部屋の外に出て、再び静かに襖を閉じた。悪いかなぁと思いつつ、どうしても千寿郎さんと槇寿郎様にこの姿を見られる事は避けたかったので、居間に書き置きだけ残し任務に出発しようとしていた。
そそくさと草履を履き、静かに玄関を出るとこに成功した私が
ほぅ
と玄関におでこを付けながら息を吐いたその時、
「すずねさん?」
背後から聞こえた千寿郎さんの声に、私の身体が大げさなほどビクリと大きく跳ね上がった。
「…その格好は?」
「あ、あの!任務!任務に遅れそうだから…もう行くね!」
「え!?」
早口で捲し立て、私は千寿郎さんの返事を聞く前にその場を去った。