第18章 dear my scarlet【コラボ作品】【暖和】
連日の任務と見まわりの疲れが溜まっていたのか、2日前に私は熱を出してしまった。昨夜にはもうすっかり平熱に戻っていたのだが、
"完全に治るまで連れていくことは出来ない。たまにはゆっくり身体を休めるといい"
と言われてしまい、私は杏寿郎さんと共に任務に行くことができず、ただその帰りを煉獄家で待っていることを強いられた。
杏寿郎さんにバレたら、絶対に叱られるだろうな。
そんな事を思いながら早朝の中庭でひとり素振りをしていると、
「柏木すずね!柏木すずね!今すぐ蝶屋敷に迎え!杏寿郎様が大変だ!杏寿郎様が大変だ!」
大きな羽音を立て、杏寿郎様の鎹鴉である要が泡を食って何処からか飛んできた。
私は、要が発するその言葉を全て聞き終える前に
っ杏寿郎さん!
自分が持ち得る全ての力を脚に込め、煉獄家を飛び出した。
杏寿郎さん
杏寿郎さん
杏寿郎さん
走りながら嫌な想像が脳裏に浮かび、胸が苦しくて鼻の奥もツーンとしてきた。
だめ。泣いたら…呼吸が乱れて着くのが遅くなっちゃう。大丈夫。絶対に。杏寿郎さんは、大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、私は走る速度を更に上げ、蝶屋敷へと続く道を走った。
…っ見えた!
視線の先にようやく蝶屋敷が見え、玄関先に私が到着するのを待っていると思われるアオイさんの姿が確認できた。
「っアオイさん!」
アオイさんは、私がその名を呼ぶとゆっくりとこちらに目を向けた。その落ち着いた様子から、杏寿郎さんの身に起こった大変なことが、命に関わる大怪我等ではない事を理解した私は
「…っ良かったぁ」
安心から来る涙を堪えることが出来なかった。
涙をグイッと手で拭いながら走る速度を緩め、アオイさんの前で止まり
「っ要に…呼ばれて…来ました…っ!杏寿郎さんは…何処…ですか…?」
文字通り全力疾走で乱れてしまった呼吸を整えながらそう問うた。アオイさんは私の姿を見て一瞬驚いたように目を大きく見開いたが、すぐにいつものキリッとした表情に戻ると
「炎柱様は奥の部屋にいらっしゃいます。その前に、状況説明のためにしのぶ様のところに行っていただく必要がございます。私について来てください」
そう言って蝶屋敷の扉を開いた。