第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
「…っ!」
その熱っぽい声に、一瞬息が止まった。けれども、私はなんとか侍女としての自分を手繰り寄せ、
「…何を…言っているのです?色目を使うようなことがあれば即刻クビにすると…そうおっしゃったのは杏寿郎様でございましょう?私がそのような目で杏寿郎様を見る事は…あってはならならない事ですよね?」
なるべく杏寿郎様を刺激しないよう、言葉を選びながらそう言った。
「その通りだ」
その通りだと言うのであれば、なぜ私は今、杏寿郎様に迫られているのだろうか。
「ならば、恐れながら今すぐそのお身体を、私からお離しくださいませ」
私は"よかった話が通じた"とひどく安心し、胸を撫で下ろした。なのにだ、
「断る」
「もう!何故です!?」
「確かに俺はお前にそう話をした。だが今この状況は、"俺がお前を色目で見ている"状況。何の問題もありはしない。そして俺は、この国のスルタン。欲しいと思ったものは…必ず手に入れる」
「…っ!?!?」
その言葉に驚愕し、固まる私の唇に
ちぅぅぅう
と濃厚な口づけが落とされた。
え?なになに?待って?
私…杏寿郎様に…キス…されてる?
私の視界に映っているのは、長いまつ毛に縁取られた杏寿郎様の燃える様な瞳だけ。杏寿郎様は驚き固まる私の様子を全く気に留めず、口づけを止めるどころか
ちぅ…ちゅっ…
私の唇を何度も食むように味わい
「…んぅ!?」
遂には私の口内に、熱く蠢く杏寿郎様の舌が差し込まれる。
「…んっ…ふぅ…やっ…杏寿郎…さま…っ!」
なんとか引き剥がそうと杏寿郎様の腕を掴むも、
クチュ…クチュ
私の口内を犯すように動き回るその舌の気持ちよさに、大した力は出てきてくれなかった。
いやだ…こんな食べられちゃいそうなキス…知らない
"スルタン様の口付けってすんごいんだから。それこそキスだけでイカされちゃいそうなくらいに"
そんな話を小耳に挟み、
いやいやそんなわけないでしょ
なんて思っていた自分に教えてあげたい。
っこれは…本当に…っ!
「…んぅ…ふっ…」
鼻から甘く出てしまう、言葉になんてなり得ない声しか出すことを許されず、私の頭と、そして女の部分がトロリと溶け出すのを嫌でも感じた。