第12章 愛おしい音に包まれて【音好きシリーズ】※裏表現有
…暑い。それに…重い。
そう思いながら薄らと目を開ける。
ここは…どこだっけ?
見慣れない襖。知らないお布団の感触。身体に回された筋肉たっぷりの逞しい腕。
身体…怠い。
私はようやく、自分がなぜここにいて、今まで"誰とナニ"をしていたかを思い出した。
背後からは寝息が聞こえ、
起きる前に…帰ろう。
そう思い至った私は、私の身体をがっしりと抱きしめるその腕から抜け出そうとゆっくりと身体を動かす。けれども
ギュッ
「どこへ行くつもりだ」
当たり前のように杏寿郎さんは目を覚まし、私の身体を"絶対に離さない"と言わんばかりにより強く抱きしめた。
この人は、あんな風にいなくなった私を、どうしてまだ好きと言ってくれるんだろう。
「…離してください」
きつく身体を抱きしめられるのと同じように、私の心は罪悪感で締め付けられる。
私だって本当は杏寿郎さんの側にいたい。でも私では杏寿郎さんにはふさわしくない。
「先程君は、俺が好きだと言っていただろう?なのになぜ逃げようとする?何がそんなに気に入らない?」
「…っ気に入らないとか…そんなんじゃありません…」
「ではなぜだ?約束通り2人共に生き残ったと言うのに、待てど暮らせど君は現れない。現れないどころか誰も君がどこにいるか知らず、気づいた時には鬼殺隊にすら所属していない。行方知れずときた。俺がどれだけ驚いたかわかるか?納得できるように、きちんと君の口から説明して欲しい」
そう怒った声で言う杏寿郎さんに、私にはそんな資格もないのにじわりと涙が迫り上がってくる。
「…だって…」
「だってなんだ?」
「私は…もう…あなたの役に立てない…隣に…いる資格も…ない…」
「またその話か?相応しいだとか役に立つだとか資格だとか…君はなぜまたその話を掘り返す?」
「…だって…あの時とは…状況が…ちがうから…」
自分でも知らぬ間にボロボロと泣いており、振り向いて、杏寿郎さんのその厚い胸板に顔を埋めたかった。
「…左耳のことを気にしているのか?」
そう言いながら杏寿郎さんは、私の身体を優しくクルリと回転させ、向き合う形へと向きを変えた。