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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第12章 愛おしい音に包まれて【音好きシリーズ】※裏表現有


蕎麦屋の2階に通され、杏寿郎さんはあの時と同じく大盛りの天ぷら蕎麦を注文し、私はこの状況に食欲なんて湧くはずもなく、けれども何も頼まないでいると間が持たないのでかけそばを注文した。

あっという間に蕎麦がやってきて、どこか見覚えのあるおじさんが個室にあるテーブルに注文した蕎麦を置く。私はと言えば、自分が最近甘味屋の裏方で働き出した外から来た女とバレたくないため、おじさんに背を向けコソコソと顔を隠していた。

「ごゆっくりどうぞぉ」

流石こう言った場には慣れているようで、おじさんはあっという間に個室から出て行き、あっという間にその気配を絶った。

先程まで食欲なんてないと思っていたのに、こんな状況にも関わらず、目の前にいい香りの蕎麦が置かれると胃にスペースがスーッと出来てしまうから不思議である。

「いただきます」

相変わらず美しい所作で食べ出した杏寿郎さんに倣い、

「…いただきます」

私もゆっくりと目の前の温かいお蕎麦に手をつけた。









「さて。俺に何か言うべきことがないだろうか?」

先にお蕎麦を食べ終えた杏寿郎さんが、私が食べ終わったタイミングを見計らいそう問うてきた。

そんなのありすぎて絞れない。

「…どうか、他の女性とお幸せに」

そう思いながら選んだ言葉がこれだ。我ながら相変わらず可愛げがないと呆れる。

私は杏寿郎さんの方を見ることができず、ギュッと手を握り締め、空になったお椀を見つめていた。

「…はぁ」

深く、大きなため息が杏寿郎さんの方から聞こえ、私は更に強く手を握り締める。

「仕方ない」

杏寿郎さんはそう言い、ゴソゴソと何かしたかと思うと

「…んぅ!?」

急激に私との距離を詰め、グッと顎を掴み、強引に私の唇を奪った。驚き反応できないでいると、あっという間にスルリと熱い舌が私の口内に侵入し、そこに何か薬のようなものがあることがすぐにわかった。このやり取りにも非常に覚えがある。


…絶対に…飲み込んだらだめだ…!


そう思ったのに

「…んぅ…っふぅ…」

強引に奥に押し込まれてしまい、

ゴクリ

薬は杏寿郎さんと私の混ざり合った唾液と共に、喉の奥底へと沈んでいってしまう。

私が薬を飲み込んだのを確認すると杏寿郎さんは唇を離してはくれたが、その代わりに

ドサリ

私をその場に押し倒した。


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