第10章 聞こえるのはあなたの音【音好きシリーズ】
杏寿郎さんはそんな私の背中を、大きく温かな手でゆっくりと撫でる。
「俺も、君のことを心より好いている。そんな君のかわいい姿を見せるのは…俺だけにして欲しい」
そんなの、答える必要もない。でも、
「…っはい。杏寿郎さんだけ。杏寿郎さん1人だけです!」
言葉にして、杏寿郎さんに伝えたいと思った。
「うむ。よし!まだ時間はある。共に横になるとしよう」
そう言いながら杏寿郎さんは、私を抱き上げ布団の上に腰掛け、
「…っちょ!杏寿郎さん!」
そしてそのまま私ごとゴロンと横になってしまう。
「ずっと待っているだけだったんだ!これくらいは許して欲しい」
そして布団をかぶり私の身体をギュッと抱きしめる。それがとても心地よく、私も思わず杏寿郎さんを抱き返した。
しばらくそのまま抱き合った後、杏寿郎さんは急に何か思い立ったのか、私から身体を離したかと思うと、私の隊服のボタンを徐に外し出した。
「…え!?杏寿郎さん!?っ急になんです!?」
「脱がそうと思ってな」
何でもない風にそう答える杏寿郎さんは、私の隊服のボタンを全て外し終えると、さらに中に着ているシャツのボタンにも手を掛けた。慌てて杏寿郎さんの手首を掴み、
「っ待ってください!流石に…今から情を交わすのには時間が…!」
半ば叫ぶようにそう言った。
杏寿郎さんは私のその言葉にピタッと手を止め、私の目を悪戯な笑みを浮かべながら覗きこむ。
「…その格好ではまずいだろう?そう思い脱がしていたまで。流石の俺も、夜通しの情報収集で疲れている君を抱きはしない!まぁ本心では抱きたいがな!」
わはは!と笑う杏寿郎さんに、私の頬はカーッと沸騰してしまうのではないかと言うほどの熱を持った。
「……っ…忘れて!」
「無理だな!」
杏寿郎さんは
''また今夜も来る''
と言って帰って行った。
来なくてもいいです。
と、いつもの天邪鬼な私が言いそうになったが
「待っていますね」
と、素直な私が勝ち星を上げたのだった。
今夜もまた
炎のあなたがここへ来るのを
待っているから。
-続-