第1章 再会
仕事終わり。
立ち並ぶビルの隙間の暗闇を見上げる。
今日、わたしはフリーとして挑んだ初仕事を終えて、清々しい気分で満ちていた。
両親と、元上司に、”無事任務終了”とだけ絵文字付きで淡々と送信した。
スタバでコーヒー買って、黒いレースの縁取りパーカーとサングラス。
飲み物までブラックというコンビネーションはわりとお気に入りで、社会人となってからはこのスタイル。
ピピピピピピっとポケットから着信の振動と音。画面を見れば、派手好きの上司の名前”天元様”からだ。
「はい。お疲れ様です。」
『よう!派手にスッキリとした声じゃねぇか。どうだった。って、その様子じゃ、聞くほどもなさそうだがな。」
ハッハッハと電話口の奥で豪快に笑っている。
こうやって反応がいいのは、私の事を気にかけてくれていたという証拠のようで、暖かい気持ちに包まれた。
「大成功でした!!イベント、大盛況で本当に勉強になる事ばかりでした!!」
「だろ?俺の一番弟子だ!上手くいかねぇ訳がねぇんだわ。」
「本当にありがとうございます!」
「おうよ!」
TGCに出演のモデルたちのメイク、ヘアの責任者にも抜擢されて、何もかもが初めての経験だった。
天元さんは、何もかもやることが突拍子もなく、豪快な人だ。
助手として彼の元に入社した時も私のスマホを取って、「これ、俺の連絡先な」と”天元様”と書かれた連絡先を勝手に入れられたり、ファッションショーとか、コンクールには結構大きなところに相談もなく次々と入れていってどれだけ肝を冷やしたか。
でも、それがあったからこそこんなに短期間で独立させてもらえるようになったんだ。
メイク道具片手に、陽気にヒールを鳴らして歩く。
「天元さん、今度、奥さんも一緒にご飯させてくださいよ!今までのお礼したいです!」
「へっ。地味な事考えてんじゃねぇ。おめぇはまだまだこれからだろ?そんなん、もっと先で良いから目の前の仕事がんばれ!!」
「え~!!毎度それじゃないですか!たまにはお礼でご飯させてくださいよぉ。雛鶴さんたちにも会いたいです。」
つい昨年までは、アシスタントでありチームでもあった天元さんの奥様三人衆と一緒に仕事をしていたのに、もう懐かしいと思ってしまう。
こんなやりとりもそうだ。